■ 『デジタル社会の日本語作法』 時間圧を乗り越えてメールを返信すること
(2007.10.20)
確かに、メールの返信を書くとき、あれこれ逡巡して時間がかかるときがある。このような状態を「時間圧」と言うそうだ。すぐに何かを「しなければならない」という感覚。個人からのメールでは、返事を要求されるケースが多々あるが、返事はすぐに返すのが望ましいということ。
返事が遅いと、返事するのに躊躇していること、場合によっては返事が重要でないと思っていることを相手に伝えることになる。相手を軽視しているようなイメージを与える。
相手も時間圧にさらされていることを考えれば、メールは簡潔に書くこと、さらに読む時間が短くてすむように配慮することが大切だ。完結性も重要。1通のメールで用件が全部伝わるようにすること。よけいな挨拶を長々と述べるのはやめてズバリ用件を切り出すこと。
メールが普及したのは、言わずもがなであるが、まずは経済的理由だろう――早い、費用がかからずに手軽、電子的に記録を残せる、相手に迷惑をかけない(メールを開くのは相手の都合次第)、等々。そしてメールが公式の機会に使われる場面が急速に広がってきた。形式の整ったメール文が要求されるようにもなった。新たに、マナーやルールが生まれた所以だ。
本書のねらいは、社会のデジタル化に伴って新たに生まれた作法を、各人が身につける必要があるという提案。社会言語学者から見た現代コミュニケーション論か。「メールの書き方」などを掲げた類書に比べて、本書では理論的裏付けがはっきりしている。
例えば、「手間暇の法則」を紹介している。丁寧さは歴史的な出現順序にも関係し、昔からあったものほど丁寧とされる傾向があるという。順に並べれば、@面談、A手紙による交渉、B電話による交渉、Cメールによる交渉、ということだ。
さらに、メールについて細かいルールに言及しているが、このあたりは実用的である。例えば、メールの宛先やメールアドレスは必須であること。件名は、本文の要約とするのがお手本であると。結局、メールとして絶対に入力が必要なのは宛先と主文だけで、他はメモと同様、省略可能であると言い切っている。メール本文では、@主文(用件)は簡潔・完結に、A主文の文体は丁寧に、B主文は改行で読みやすく、などのルールを挙げている。
◆ 『デジタル社会の日本語作法』 井上史雄・荻野綱男・秋月高太郎、岩波書店、2007/7
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