■ 『人類の起源』 デニソワ人とは何者?  (2022.11.5)








現代人(ホモ・サピエンス)はどこに起源があるのか。DNA研究をめぐる革新技術の進歩はすごいものだ。PCR法とか――コロナ禍でウィルス検出ツールとしてよく耳にしましたね、次世代シーケンサーとか。ゲノム解析が進んで集団が形成された歴史が明らかになるとのこと。デニソワ人とは初耳だが、このゲノム技術解析から発見されたようだ。
本書は「人類の誕生の歴史について」最新成果を整理して提示してくれる。日本人のルーツに新しい展開はあるのか。


微量なDNAを増幅する技術であるPCR法の発明を契機として、DNA解析は格段に進歩した。2010年にはネアンデルタール人のすべてのDNAの解読に成功。この結果、彼らの祖先と現世人類(ホモ・サピエンス)が分かれたのは、60万年までほど前と確定した――これは常識を覆すこと。大きな遺伝的変化が起きたことが明らかになった。
ゲノム解析が進展し、未知の人類が発見されるに至った。2010年に、シベリア北部の洞窟から出土した指の骨と臼歯のDNAが分析された。その結果、ネアンデルタール人ともホモ・サピエンスとも異なる、デニソワ人と呼ばれる新しい人類が発見された。DNAの証拠だけで新種とされた最初の人類だ。

かつて、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスは交わることなく、滅亡したと考えられていた。今やこの結論は覆され、2010年の研究成果では、ホモサピエンスとネアンデルタール人の交雑が、DNA分析から明らかにされた。アジア人とヨーロッパ人にはおよそ2.5パーセントの割合で、ネアンデルタール人のDNAが混入しているという。
  現代人とチンパンジーの分岐の年代はDNA研究からは700万年前となる。ヒト化の最大要因は脳の顕著な増大である。チンパンジーとの共通祖先から別れて数百万年後、樹上の生活から地上に降り直立して二足歩行を始めたことが契機となった。猿人から現在の私たちへ、脳容積はおよそ3倍に増加している。新しい種が生まれたときに急激に増大し、やがて安定期を迎える。時間とともに増大するわけではない。

脳はエネルギーを大量に消費する。体が消費するエネルギーの約20パーセントになる。脳容積の増加は生物に大きな負担を強いるのだ。行動や、食性、社会構造とかに。脳の大きさと社会集団の規模には密接な関係があるという。複雑な社会をつくることが、効率的にエネルギーを摂取することを可能にしたのか。

猿人→原人→旧人→新人=ホモ・サピエンスと進化する。ホモ属の誕生をもって人類が生まれたと考えられる。最古のホモ・サピエンスが登場したのは発見された化石から、30万から200万年前のアフリカとされる。6万年前にはホモサピエンスはアフリカを出る。そして旧大陸にいたホモ・サピエンス以外の人類を駆逐しながら世界に広がった。ゲノム解析によれば、ホモサピエンスが世界展開の過程で他の人類の遺伝子を取り込んだことが明らかになっている。ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人という三種の人類は数十万年にわたって共存した

出アフリカから1万年ほどの間に、現代人につながる系統として、東アジア系統、ヨーロッパ系統、ユーラシア基層集団の系統の3つが成立していたと考えられる。現在では、世界中の遺伝的に区別しうる集団は、単系統で成立したものではない。すべての集団は、歴史の中での離合と集散、交雑や隔離を経て成立してきたことが古代ゲノム解析であきらかになっている。

日本列島にホモ・サピエンスが到達したのは4万年ほど前の旧石器時代。およそ1万6千年前には日本列島で土器がつくられるようになった。それから北部九州に稲作がはいる3千年前ごろまでの時代が縄文時代だ。縄文人は4万年前以降に東アジアに展開した異なる2つの系統が合流することで形成されたのだろう。中国の西遼河流域で農耕とともに起こった集団の動きは弥生時代初期の農耕民の流入として日本列島に影響を与えた。
  日本人の成り立ちは、かつて二重構造モデルで紹介されていた。旧石器時代に東南アジアから北上した集団が日本列島に進入して基層集団を形成する。彼らが列島全域で均一な形質をもつ縄文人となったと仮定。一方列島に入ることなく大陸を北上した集団はやがて寒冷地適応をうけて形質を変化させ北東アジアの新石器人となる。弥生時代の開始期になると、この集団のなかから朝鮮半島を経由して北部九州に稲作をもたらす集団が現れた、それが渡来系弥生人だと。

ゲノム解析で明らかになったのは。日本列島に最初に現生人類が進入したのは、およそ4万年前の後期旧石器時代。その後長く旧石器時代が続く。縄文人が旧石器時代にさまざまな地域から入ってきた集団によって形成される。弥生時代の渡来人と、在来の縄文人集団が混合する。縄文人のゲノムは他の集団から大きく離れており、彼らが大陸集団から早くに分岐し、日本列島の中で長期間独立して独自の遺伝的な特徴を獲得したことがわかる。
  朝鮮半島南部の集団が6千年前には、現代日本人と同じくらい縄文的な要素を持っていたという事実。これまで単純に在来の縄文人と渡来系弥生人の遺伝子をまったく違うものとして扱ってきた日本人起源説に再考をうながす。稲作農耕民と雑穀農耕民が朝鮮半島に流入し、そこで在地の縄文系の遺伝子を持つ集団と混合することによって、新たな地域集団が形成され、その中から生まれた渡来系弥生人が3千年以降に日本列島に到達したというストリーが見えてくる


◆ 『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』 篠田謙一、中公新書、2022/2

HOME      読書ノートIndex     ≪≪ 前の読書ノートへ    次の読書ノートへ ≫≫