■ 『渋滞学』 自己駆動粒子ですべて解明できるか (2007.2.4)
交通ニュースで高速道路の自然渋滞という言葉をよく聞くが、原因はこういうことらしい。車間距離が短い密集した車の集団が、緩やかにたわんだ坂道に入ったときに起きる連鎖反応だという。
車がゆるやかな上り坂にさしかかると、運転手は上り坂だとは気づかないので、アクセルはそのままで走る。すると少しずつスピードが落ちてくる。ある程度スピードが落ちると気がつくので、アクセルペダルを少し踏み込む。しかし後ろに車が続いていれば、車間距離はどんどん詰まってきてしまう。
前の車が減速すると、後ろの車が気づいて少し減速し、そのまた後ろの車はさらに大きく減速する。それが次々と後続車に伝わってゆく。最初の車のブレーキはほんのわずかでも、ブレーキを踏む強さはどんどん大きくなって後ろに伝わっていく。こうした連鎖反応を通して、もしも後ろに多くの車が連なって走っていれば何十台か後ろの車はストップしてしまう。
このように発生する車の渋滞は交通工学の研究テーマだ。建築工学では災害時の避難安全などのテーマもある。人間の行動分析から社会心理学まで関連することになる。現代では、インターネットの渋滞が情報工学での最もホットな話題の一つである。
本書では、交通渋滞から最新のインターネットまで、「自己駆動粒子」という概念がこのような渋滞現象に適用できるとしている。なかなか興味深い。人や車は、それを粒子として見ると、必ずしもニュートンの運動の3法則が成り立つわけではない。このような対象を「自己駆動粒子」系と呼ぶ。人は自己駆動粒子であるが、お互いに密着した状態では自己駆動性が失われてしまい「ニュートン粒子」に近くなる。
インターネットの渋滞は、大量のパケットがルーターという交差点に集中することで引き起こされる。ただし、車は交差点で待たされるが、パケットは物理的実体がないため、渋滞すると捨てられるというちがいがある。
自己駆動粒子の運動を従来の物理学の法則で正確に扱うことはできない。運動を決めるルールで最も難しいものが心理的な駆け引きであり、人間の行動の場合にはほぼすべてを決めるぐらい重要な要因。
著者は、自己駆動粒子のモデル化には、心理やジレンマを扱うゲーム理論と学習理論が今後重要になるだろう、学際的な取り組みが必要であると言っている。
◆ 『渋滞学』 西成活裕、新潮選書、2006/9
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