■ 『解体屋の戦後史』 米軍スクラップが東京タワーに (2010.8.8) ――『日本人が築いてきたもの壊してきたもの』――

いま話題の、東京墨田に建設中の東京スカイツリーは、2012年に完成予定とのことだ。自立式電波塔として世界一の高さ634メートルが計画されている。お役ご免と見られた東京タワーにも、郷愁がかき立てられたのか意外と人気が盛り上がっているようだ。東京タワーの高さは333メートル。完成は1958(昭和33)年である。

東京タワーは、まちがいなく戦後のたくましい日本の復興〜高度成長のシンボルでもあった。スカイツリーは、失われた10年だか(もう20年にもなるらしい)の黄昏の中に輝くランドマークのようでもある。


本書は著者の言うように確かに「裏から見た経済史」である。執筆のヒントになったのは、1988年1月にNHKで放映された「俺は天下の解体屋」という番組。とりわけ、朝鮮戦争で使われた米軍戦車が、その後日本に運ばれ解体されて東京タワーの鉄骨として使われたという部分に興味を引かれたとのことだ。

著者・生方幸夫の数多い著作のなかでも、本書は1994年の刊行であるが、ノンフィクションのベストワンではないか。幅広い取材をベースにして、解体を縦軸に、解体を依頼した側を横軸に重ね合わせてテーマを浮かびあがらせ、ユニークな視点から戦後史をとらえている。

1950年に始まった朝鮮戦争は53年に休戦協定が結ばれた。米軍は軍需物資を大量に日本の民間業者に払い下げ、その払い下げ物資に戦車も含まれていた。戦車は解体され形鋼に加工され、最終的に東京タワーの一部になったという。米軍戦車は細い鉄骨として使われたらしい。当時、日本には、基幹産業である高炉会社はまだ十分に育っておらず、大量のスクラップ――戦車のスクラップはかなり質のいいものだった――は貴重だった。

東京タワーの建設は1957年6月に始まった。1000トンから1500トンが百メートルから上の細いアングルとして使われた。東京タワーの実測重量は約3600トンだから米軍戦車は東京タワーの3分の1強を占めていることになる。

戦車と東京タワーを結びつける肝心の文書は見つからなかったが、執拗な取材から、東京タワーの元施設管理者に行きつくことがで、その証言から東京タワーと米軍戦車の結びつきがはっきりした。「米軍戦車は焼きが入っており、品質がいいから使ったんだ」とのことだった。


◆『解体屋の戦後史 繁栄は破壊の上にあり』 生方幸夫、PHP研究所、1994/6月


 本書は、『日本人が築いてきたもの壊してきたもの』と改題・加筆し、
 新潮OH文庫から、2001/10に再刊行されている。








    HOME      読書ノートIndex     ≪≪ 前の読書ノートへ    次の読書ノートへ ≫≫