■ 『発想法』 梅棹忠夫「こざね法」からKJ法が産まれた  (2010.7.15)

民族学者の梅棹忠夫さんの逝去が報じられた(2010.7.3)。享年90とのことだ。1969年のベストセラーである岩波新書の『知的生産の技術』が忘れられない。なかでも強く印象の残るのが、「こざね法」と称する情報整理の手法だ。
名刺サイズの小さな紙きれ(こざね)に、短い文章をどんどん書いてゆき、つながりのある紙きれをいっしょにならべ、端を重ねてホッチキスでとめる。こうして一つの思想/文章をまとめる方法。「こざね法というのは、頭のなかの動きを、紙きれのかたちで、外に取り出したものだ」と、梅棹さんは言っている。


川喜田二郎さんの提唱した発想法――KJ法ともいう――は、まちがいなく、この「こざね法」を母胎としている。
発想法は、川喜田二郎さんによれば、もともと野外科学の必要性から始まったという。野外で観察した複雑で多様なデータを、「データそれ自体に語らしめつつ、いかにして啓発的にまとめたらよいか」という課題から始まっていると。
野外科学では、仮説をどうして思いつけばよいのか(発想)というのが大切なテーマだ。アイデアを創り出す方法でもある。


「発想法」を適用する具体的な手順は次の通りである。
まず、自分たちが取り組みべき問題を明確にすることが第一段階だ。問題に関係のありそうなことがらを全部列挙してみること。とくに、複数で共通の問題を取りあげなければならないときは重要である。列挙された事柄を組み立てて構造づけてみる。そのときに、なるほど問題はこうなのだ、とはっきりする。

次の段階はいわば外部探検だ。前段階ではっきりした問題について、関係のありそうは情報を探検・収集すること。
問題をめぐって360度の多角的な視点から情報を集めること。

この外部探検の過程では、ブレーンストーミング――オズボーンが創り出した――の採用が効果的である。
ブレーンストーミングでは4つの注意を守ること。@他人の意見を批判しない A自由奔放に意見を述べる Bできるだけ多量のアイディアを出すこと C他人の意見を受け入れ発展させる。他人の意見から触発されて、他人と自分の意見を結合してゆくことだ大切である。

(1) ブレーンストーミングの発言を記録する
ブレーンストーミングで上がってきた、一つひとつの発言=情報を、名刺大の紙片に書き付けること。そして、情報のエッセンスとして見出しを付けること。
この見出しは過度に抽象化しないこと。もとの発言の肌ざわりが伝わるように、柔らかく表現するのがよい。難しい術語や堅い熟語で妙に抽象化した見出しにしてはならない。

(2) グループを編成する
ブレーンストーミングで得られた複数の紙片(ひとつ一つに見出しが付いている)をグループにまとめること。
まずは、紙きれ群をよくながめること。やがて紙きれ同士で、お互いに親近感を覚えるものが目につき、それらを一括りにまとめられるだろう。
これらをチームにまとめる。小チーム同士を編成して、いくつもの中チームをつくる。さらに中チームを集め、同様にして大チームをつくるという手続きを踏む。

かならず小分けから大分けに進むこと。大分けから小分けにもっていくのは邪道である。例えば、これらの紙きれは内容的に市場調査・品質管理・労務管理と3つに大きくグループ分けできる、などという予断的な原理をあらかじめ持って進めてはならないのだ。

発想法を適用するうえで、個人的にもっとも難しいと感じるのが、この(3)のグループ編成過程だ。どうしても、既存の分類枠にとらわれてしまう。

(3) 適切な空間配置を見つける
できあがったグループを広い紙の上に配置してみよう。いろいろ配置を試みると、落ち着きのよいという空間がかならず一つはみつかるだろう。
ひとつの空間配置ができたとき、その配置の意味する内容を口のなかでつぶやいてみよう。それがすらすらと説明でき、内容がスムーズにつながったら、その配置は適切である。

空間配置が悪いときには、つぶやきの説明がどこかでひっかかり、つながらない。どこか理解のしかたが悪いのである。
これはこう配置して理解すべきではなかった、こう変えなければならない、と空間配置を考えなおさなければならない。

(4) 文章化
配置されたグループ群は、ひとつの理解の流れになっているはずである。これらをつなげて文章化することで、提起された問題に対する答えになるだろう。
文章化するときは、叙述と解釈とを区別するように注意しなければいけない。文章の中で、どこまでがデータをとりまとめて述べたことであり、どこがそのデータに触発されて自分が考えた、独創ないし解釈であるかを、はっきり区別すること。


◆『発想法 創造性開発のために』 川喜田二郎、中公文庫、昭和59(1984)年/6月

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