■ 『化石に眠るDNA 』  絶滅動物は復活するか   (2024-5-3)





あの衝撃的な映画『ジュラシック・パーク』はTVでしか見たことがなかった。大草原を恐竜たちが悠然と闊歩する冒頭のシーンとか、まさに実際にカメラで撮ったとしか思えないほど迫真力にあふれていましたね。『ジュラシック・パーク』は実際の研究を促進する役割も果たしたという。ティラノサウルスの化石からDNAを抽出するプロジェクトに助成金がおりたとか。



恐竜の血液を 琥珀のなかに保存された太古の昆虫から抽出するという「奇想のアイデア」はマイケル・クライトンのオリジナルではないそうだ。最初に考えついたのはアメリカの作家ペルグリーノ(動物学の博士号を取得している)らしい。シベリアの永久凍土から発見されたマンモスの中には組織などが非常によく残っているものもある。組織にはDNAが含まれている。すでにマンモスの化石から免疫学的な手法でタンパク質が検出された研究結果があるという。マンモスや恐竜の復活という夢がひろがる。

PCRという新しい技術が1980年代後半に普及し始める。ポリメラーゼ連鎖反応と言いDNAを簡単に増幅できる技術である。開発者のキャリー・マリスは1993年にノーベル化学賞を受賞した。PCRは高感度でほんの少しのDNAでも増やすことができる革新的なツールである ――コロナ禍では大活躍しましたね。反面、関係のないDNAがわずかでも混入すると、そのDNAを増やしてしまう可能性がある。DNAが本当に琥珀のなかの昆虫のものなのかどうかという真偽性に関わる。生物は汗や吐息など、のべつ幕なしにDNAをまき散らしている。実験室の壁、空気中には幾ばくかのDNAは存在する。それが何らかの形で化石に混入する可能性は非常に高い。

古代ゲノムの研究は次世代シークエンサーの普及に伴って、飛躍的な発展を遂げた。とくに莫大なデータを処理することによって混入の問題が克服されたことが大きい。もっともよく調べられているのはヒトの古代DNAだ。古代DNAから地球上のさまざまな生物で絶滅種を復活させようとしている人々がいる。たとえば地球の温暖化に抗するために絶滅種(マンモス)を復活させるとかだ。生態系の回復が目的。絶滅種を自然界に放つことによって失われた生態系を取り戻すことだという。

マンモスを復活させるには、クローン技術のほかに遺伝子編集による方法もある。マンモス重要なの特徴は4つ、@密生した体毛 A厚い皮下脂肪 B小さくて丸い耳 C寒いところでも機能するヘモグロビンだ。クリスパー・キャス9という方法を使って、マンモスの遺伝子をアジアゾウのゲノムに組み込むのだ。

生物の体は数百種類の分化した細胞で作られている。すでに分化した細胞はそれ以上変化することはできないし、未分化の状態に戻ることもできない。マンモスの遺伝子を組み込むのはアジアゾウのまだ分化していない細胞でなければならない。アジアゾウのiPS細胞を作らねばならないのだ。研究室では実際にこの実験が開始され、マンモスの遺伝子をアジアゾウのゲノムに組み込むことに成功しているそうだ。

恐竜の復活はどうか。恐竜には鳥類型恐竜と非鳥類型恐竜がいる。非鳥類型恐竜は絶滅したけれど、鳥類型恐竜の一部は現在まで生き残って鳥と呼ばれている。いかにして恐竜から鳥に進化したのだろう。科学的好奇心がつのる。その過程を知りたいものだ。恐竜と鳥の違いは4つある。@前肢、恐竜の前肢は腕の先に手がついている、鳥の前肢は翼。A鳥の顎はくちばしになっている。B鳥には歯がない。C恐竜には長い尾があるが、鳥には尾羽があるだけ。おそらく約1億5000万年前に鳥の系統は、恐竜から分岐していたと考えられる。

生物が進化する原因は2つ。@遺伝子の変化、A遺伝子が発現するタイミングや発現する量(最終的に作られるタンパク質の量)が変化すれば、生物の形や性質が変化する。遺伝子の変化よりも、発現の変化の方が、影響が大きいのではないか。遺伝子自体を変化させるには時間がかかるが、発現を変化させた方が手っ取り早い。発現のスイッチを入れたり切ったりすれば、遺伝子を入れ替えることも簡単にできる。

生物の形や性質が短期間に大きく変化したときには、遺伝子の発現がかかわっている可能性が高い。恐竜から鳥への進化にあたっては、発現の変化が重要な役割を果たしただろう。ニワトリの胚の発生に手を加えて、チキノサウルスという小さな恐竜をつくり出そうというい研究が進んでいる。


◆ 『化石に眠るDNA 絶滅動物は復活するか』 更科功、中公新書、2024/2

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