■ 『記憶力を強くする』 海馬は記憶情報の管理塔 (2016.6.23)
脳科学者である著者の専門領域は、大脳皮質の内側にある「海馬」である。
海馬はいわば、記憶情報の管理塔だという。さまざまな情報を収集し、統合したり取捨選択したりする。
記憶を頼りにあれこれ思いを巡らせているとき、海馬の神経細胞は非常に活発にはたらいている。
本書は、海馬の興味深い役割と関連づけて、「記憶力を強くしたい」という一般のニーズに応えようとしている。
記憶のメカニズムはどうなっているのだろう? 勉強において。とくに復習は大切だという。
脳の複雑なはたらきは、脳に含まれている約一千億個の「神経細胞(ニューロン)」によって営まれている。神経細胞どうしの接点を「シナプス」と呼ぶ。人の神経細胞の数は、誕生したばかりのときが最も多く、歳をとるにつれてでどんどん減っていく。
英国ロンドンのタクシー運転手は地理案内に熟達していることで有名である。その運転手の脳を分析すると、興味深い結果が得られるそうだ。一般人よりも、特定の脳部位――「海馬」――が発達しているとのこと。海馬が鍛えられて記憶力が増大している。記憶力は鍛えることができる。鍛えさえすれば活性化され増殖さえするという。
記憶システムには階層構造がある。一番下の階層が手続き記憶、最上段にエピソード記憶。下の階層ほど原始的な、生命の維持にとってより重要な記憶である。生物の進化の過程よく表している。海馬はエピソード記憶と意味記憶に深く関係した脳部位――日常的な意味での記憶。海馬は記憶のための特殊装置。
エピソード記憶とは、いつどこで何をしたという過去の自分の経験や出来事に関連した記憶。経験とは関係のない「知識」、これは意味記憶という。エピソード記憶は意識して思い出すことができるが、意味記憶は、潜在記憶なので、何か特別なきっかけが与えられないと思い出すことができない。度忘れは、意味記憶に対して頻繁に起きる。手続き記憶は、体で覚えるもの。長期記憶の一種。服を着たり脱いだり、赤ん坊のころにはできなかったこと。歩いたり、箸を使ったり、タイプライターを打ったり、
脳にはあるきっかけに従って変化を起こし、この変化を保ち続けるという性質がある。これを「脳の可塑性」とよぶ。記憶することは神経細胞のつながり方が変化すること。
記憶とは神経回路の変化。言い換えると、記憶とは新たな神経回路のパターンを作り上げること。コンピューターはアドレス方式とよばれる方法で記憶する。
連合学習。何かに関連づけて記憶するのが効率的。ただ「ワシントン」と覚えただけでは役にたたない。「アメリカの初代大統領」と覚えることで初めて意味のある記憶となる。一方、事象を連合させると覚えやすくなる。初代アメリカ大統領で偉業を成し遂げた、と連合すると意味のある事象となって脳の記憶を助ける。また「語呂合わせ」は連合によって記憶を助けようとする典型的な例。
視覚の能力が発達したのは動物の進化の過程では比較的最近のことです。つまり長い進化歴史で、動物は目よりもむしろ耳をよく活用してきた。したがって耳の記憶は目の記憶よりも強く心に残る。歌の歌詞をそのまま見て覚えるよりも、メロディーと一緒に覚える方が記憶しやすくなるということは誰でも経験している。古代では時事や祭事などの大切なことは、歌に託して子孫に伝承していました。語呂合わせを自分で作るのがよい方法です。
◆ 『記憶力を強くする 最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 』 池谷裕二、講談社ブルーバックス、2001/1
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