■ 『ライオンボーイ』近未来のピーターパン (2003.10.20)
くるくると良く動く好奇心いっぱいの大きな目。肌は褐色、頭の毛は縮れているかな。背格好は小さい方だ。しなやかな手足、けっして一瞬たりとも緩慢な動きはない。顔つきにはまだ幼さが残っているが、ふっと、両親ゆずりの思慮深い横顔に気が付くときがある。冒険が大好き。ゆらゆらする丸太橋でもさっさと先頭に立って渡ってしまうだろう。動物とはすぐ仲良しになる。そんな少年、チャーリーが主人公だ。
ある日、チャーリーが帰宅してみると、父さんも母さんも見当たらない。そして不可解な手紙が残されている。2人とも科学者である。何か秘密にからんで誘拐されたのか?ロンドンからパリへ、チャーリーは巨大な蒸気船にもぐり込み、両親が捕らえられている潜水艦を追う。その巨大船の甲板には特大のサーカス・リングが設置されている。そして、サーカス一座には6頭のライオンがいる。
チャーリーはネコ語がわかる。子どもの頃ふとしたことで、ヒョウの血が体内に入ったためだろうか。人間を相手にするようにネコと話せるのだ。同じネコ族のライオンとも話せることがわかった。
檻に閉じこめられたライオンは、薬を飲まされ精気を奪われている。無理矢理に芸をやっているが、アフリカに戻りたいと思いがつのる。チャーリーは彼らを助けてアフリカを目指すことを決心し、ライオンたちと緻密な計画を練る。
ここからライオンたちを引き連れてドキドキする大脱走が始まる。パリの地下水道を抜け、憎たらしい悪役に今一歩の
ところまで追いつめられる。ネコたちが届けてくれる両親の情報に勇気づけられる。そして、なんとかオリエント急行に乗り込む。しかしアルプス山麓で季節はずれの猛吹雪のため列車の中に閉じ込められてしまう。突然現れたブルガリアの王様は?6頭ものライオンは誰にも見つからないのだろうか、……。
もう石油はほんの少ししか残っていない。大気汚染の規制もあって、住宅地では既に車は使用禁止。ほとんどが電気自動車。こんな近未来を舞台にしたピーターパン物語だ。
◆ 『ライオンボーイ』 ジズー・コーダー、枝広淳子訳、PHP研究所、2004/2月
刊行予定
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