■ 『メルトダウン』  ドキュメント福島第一原発事故 (2012.5.16)




2011年3月11日に東日本大震災が発生した。とりわけ福島第一原発の事故は戦後日本人が経験したなかで、最悪レベルの災厄ではなかったか。原発建家がガス爆発で次々と吹き飛び、なすすべもなくメルトダウンの恐怖におののき、計画停電の暗闇のなかで、ひたすらテレビの画面を見つめるしかなかった。

本書は、その生々しいドキュメントだ。著者のスタンスは、あくまでも自らが確認した事実だけを報告することだろう。ひとつ一つの事実報告にキチンと引用先が明記されている。確固とした事実を伝えるための努力が惜しみなくはらわれている。もちろん、これは著者の視点から確認できた事実である。視点が変われば、当然そこから別の事実が見えるだろう。本書は、やや官邸サイドからの事実報告かな、との感がある。特に東電に対しては厳しい指摘が並ぶ。

第三者機関による事故報告書は未だ公にされていないが、複数の立場からの検証・原因究明はそれぞれ意義があることだ。国会には「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」設けられている。(2012.5.14)には、東京電力の勝俣恒久会長が参考人として招致され、公開で質疑が行われた。

新聞によれば、勝俣氏は、菅前首相が事故翌日に事故原発を視察したことについて、「吉田昌郎所長らが対応したが、所長は事故の復旧に全力を尽くすのが一番大事だった」と述べ、首相視察が事故処理の妨げになったとの認識を示した、とある。さらに「首相や首相補佐官からダイレクトに、所長に電話での照会があった。芳しいものではない」と、官邸の対応に不満を述べたそうだ。

この会長発言には、すでに事故経過後1年を超したいま、まだ自己弁護の発言に終始するのか、との違和感がある。本書に活写されているように、東電幹部の危機管理のウロウロぶり、原子力界のボスとかの組織追従的な対応とか。ウンザリ事例は枚挙にいとまがない。情報断絶のなか、徒手空拳で獅子奮迅のリーダーシップをとり、東電を恫喝したといわれる菅直人を自分は十分に評価したいと思う。

専門家にも想定外の大事故に際して、腰の据わった危機管理を遂行できる力が不足したようである。たとえばフェールセーフ機能の知識。フェールセーフとは万が一の緊急事故の際に安全を保つ機能。復水器では配管破損が感知されれば、漏水しないように弁が閉じるよう設計されている。

大津波によって電源を失った直後、非常用の復水器は作動したが、冷却が急速すぎるとの運転員の判断で止められてしまった。さらに、復水器にフェールセーフ機能が働き、弁が閉じたとも推定される。このため、非常用復水器はほとんど機能しなかったと考えられる。復水器の水量は残っていたが、原子炉の冷却にはほとんど供されなかったのだ。

現場の運転員には電源喪失とフェールセーフ機能を結びつけて考えるものはいなかったという。発電所の幹部たちも、東電本店もそうだった。フェールセーフ機能が働いたことを想像できなかった。

肝心の原子力保安院も頼りなかった。菅は言う、「保安院は専門的な知識があるはずなのに、それなのに私が聞いても理解できるような、なるほどなという回答が、なかなか返ってこない」。1号機の爆発をTV画面で目にした、原子力安全委員会の斑目委員長が、「アチャー」という顔をして両手で頭を覆って、「うわーっ」とうめいた、というシーンは象徴的だ。


◆ 『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』 大鹿靖明、講談社、2012/1

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