■ 『ミラーニューロンの発見』 「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (2015.2.10)








ミラーニューロンは、この本で初めて知った。このニューロンの発見は、生物学のDNAに匹敵するとの言もあるようだ。人間の相互コミュニケーションを実現するうえで、最も有用なニューロンであるように感じる。


人間の脳には約1000億個のニューロンがあるという。その1個ずつが、ほかの数万個ものニューロンと連絡しあう。連絡の接点であるシナプスを通じてニューロンは互いに信号を伝達しあうのだ。ミラーニューロンは、1996年に、イタリアのパルマの大学で、ジャコモ・リゾラッティを中心とする神経生理学者のチームで発見されたそうだ。ミラーニューロンは簡単には「物まね細胞」と表現できるらしい。

ミラーニューロンとは、他者の行動を自分の脳内で「」のように映し出す神経細胞である。このニューロンは、自分がある行動をしているときに活性化するが、一方その行動を他者がしているのを見ているときにも同じように活性化する。他者の行動を見たときにも自分が行動しているかのような反応を示すのだ。

脳内のミラーニューロンは、自分でサッカーボールを蹴ったときにも、ボールが蹴られるのを見たときにも、ボールの蹴られる音を聞いたときにも、さらには「蹴る」という単語を聞いただけでも、同じように発火する。

このミラーニューロンこそ、人間が他者に共感を示したり自己意識を形成するという面に関わっている。だから、我々は、他人のしていることや、考えていること、感じていることが、わかる。他人の喜ぶ顔を見ればつい自分も笑顔になるし、他人が悲しんでいるところを見ればもらい泣きもする。

ミラーニューロンは、人間の行動を複雑かつ抽象的にコード化しているようだ。耳だけで他人の行動を知ることができるのだから。人間が動くとき、靴は床に独特の音をたてる。だから靴音を聞くだけで、2階の住人が何をしているかがわかる。私たちが音を認識するというのは、その音を発生させる行動をそっくり自分の脳内でシミュレートすることなのだ。

人間は、さまざまな状況で、他人のさまざまな表現を模倣する――笑い、微笑、好意、困惑、不快、嫌悪、努力など。このような模倣はコミュニケーション行為だ。言葉によらないメッセージを迅速かつ精確に別の人間に伝えているのだ。痛みは個人の経験だが、脳はそれを他人と共有される経験として扱う。このような神経メカニズムは社会的な絆を築くのに不可欠なものだ。


◆ 『ミラーニューロンの発見 「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』 マルコ・イアコボーニ/塩原通緒訳、早川書房、2011/7、ハヤカワノンフィクション文庫
    原書は2009年5月にハヤカワ新書Juiceから刊行された。

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