■ 『ニュートンの海』 リンゴは落ちたのか (2005.9.19)

何を今さらニュートンか、との思いもあったのだが。本書を読む楽しさは、すでに三百数十年にもなろうというのに、今なおニュートンの理論が正確に生きているという、素朴な驚きを実感することだろうか。

われわれ現代人の生活と知識は、ニュートンの宇宙をもとにして成り立っているのだから。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ブッシュ米大統領は、NASAの有人月着陸計画――2018年に宇宙飛行士を月面に送る――を承認したそうである。近々、中国が有人衛星を再び打ち上げるとの報道もある。

ニュートンの学説の正しさを、劇的な例によって最初に世に示したのが、ハレーである。ある彗星(ハレー彗星だ)の軌道を計算し、それが76年ごとに戻ってくるという予測を公表した。1715年には、太陽の皆既日食を予測し月の影が通過する英国内の地点を発表したのである。

ハレーは、ニュートンの大著『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア)の刊行を推進したことでも有名である。言葉巧みになだめたりおだてたりして、執筆を促したそうだ。「先哲たちがやみくもに手探りで進めてきた事業を、科学的に完成させる名誉を、あなたは自ら負われることになりましょう」と。

さらに、王立協会の面々には、「太陽の中心に向かう重力は、太陽の中心からの距離の逆自乗に比例するという推測のみによって、天体の運動の現象すべてを解き明かす」ものである、と宣言している。『プリンキピア』の発刊は1687年、ニュートン45歳のとき。

『プリンキピァ』は、人類の科学史に革命的な変化をもたらした著作と言われるが、ニュートンの着想は、刊行に先立つ二十数年前のほぼ1、2年の間に醸成されらしい。ペスト流行の1665年から1666年が、変貌のときだったという。ほとんど外界との連絡を断ったまま、彼は世界最高の数学者になっていたのだ。当時24歳前後か。

かの有名なリンゴのエピソードはどうなのか?ニュートンは、故郷ウールズソープの庭のリンゴに示唆を得た、と打ち明けている。ただ「私は月まで及ぶ重力のことを考えはじめた」と追憶しているだけだ。つまり重力は、境界もなく遮断されることもなく、影響を及ぼす力なのではないか。そして地球表面の重力のあるところで月を軌道上に保つには、どんな力が必要かを計算してみた。すると、かなり近いところまでその答えを出せることがわかったと。


◆『ニュートンの海 万物の真理を求めて』 ジェイムズ・グリック著、大貫昌子訳、日本放送出版協会、2005/8月刊


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