■ 『日本語ほど面白いものはない』 ものすごくたくさんの言葉がある (2011.1.24)
著者・柳瀬尚紀さんは翻訳者であり、自他ともに許す「日本語の天才」である。その柳瀬さんが、「子どもの本屋さん」に誘われて、小学校に出向いて特別授業をすることになった。島根県の山奥・美郷町の邑智小学校。授業をうけるのは6年1組の16人。
柳瀬さんは、日頃から「子供」というのは決して侮れないと思っていた。読者ハガキに書かれている感想の言葉がすばらしかったそうだ。工夫を凝らした訳語に対して、常識にとらわれない新鮮な反応が返ってくる。少年・少女というものがどれだけの可能性を秘めているかと。
2回の特別授業が行われた。第1回は「みんな日本語という世界の住人」、第2回は「最大の奇蹟は言語である」。柳瀬さんの言葉に対する該博な知識と、日本語教育への熱い思いが伝わってくる。
たとえば、こんな導入部……「美」という字は「羊」という字がもとになってできた字です。大昔の中国では、太って大きい羊を「みめよい」といいました。「みめよい」から「美しい」という字が生まれましたと。いやがうえにも興味がかき立てられないか。
言葉があるおかげでおたがいに通じ合える、言葉は他人に何かを伝える。言葉を手に入れた人間は、つぎに文字をつくりました。文字を持ったのですね。これがまた、すごいことでした。宇宙へ行くよりはるかにすごいことだったのです、と。
日本語にはものすごくたくさんの言葉があって、同じたった一つの言葉でもいろんなふうに生きています。そういうことを知るには、文字を読む、本を読んでほしいと、柳瀬さんはいう。
そして、授業というのは、先生があらかじめ用意したことを生徒に教えたり、生徒を試したりするだけでなく、先生が不意を突かれたり、先生自身が予定していなかったことを生徒に話すときがいちばん生き生きした時間かもしれない。ですから、なにか疑問があったら、けっしてしりごみしないで質問をしてみることです。
◆ 『日本語ほど面白いものはない 邑智小学校6年1組 特別授業』 柳瀬尚紀、新潮社、2010/11
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