■ 『日本的改革の探究』 キーワードは「役割」 (2005.3.26)

本書を手に取ったのは、『お言葉ですがH 芭蕉のガールフレンド』(高島俊男著、文藝春秋、2005/2刊) で好意的な紹介があったからです。高島先生は、この本は企業の性格や強弱をつうじての日本人論であると言っています。日本人がどういう物の考えかたをするかを知るためには、日本語の性質を知らねばならない。母音が主で音節構造が単純であり、視覚と文脈に依存する傾向が強い、といったふうな。

そして、この本のキーワードは「役割」だということを喝破しています。日本では、役割構造が安定していないと人の能力を生かすことができないと。

例えば、名刺は、その人の役割を確認するために日本人にとって重要なものである。ひとたび安定した役割をあたえられると、日本人は俄然その有能を発揮する。仕事に創意工夫を加え、精緻化すると。

そうか!と納得しました。しかし、たった1行ひとことが、著者への信頼を急激に失わせることがありますね。

本書でいえば、108ページの「フィッシュボーン」と「課題ツリー」の章にぶつかったときです。著者は、フィッシュボーンに対して、KJ法という(注)を付していますが、大きな誤解です。少しでもKJ法を知っていれば、フィッシュボーンとはまったく関係ないことはすぐわかります。参考文献に、川喜田二郎『発想法』が挙げられていますが、読んでいないのでしょう。多分、KJ法の結果をフィッシュボーン表示してある分析事例をみて短絡的に判断したと思われます。

さらに著者は、欧米で問題の構造化に使われる「課題ツリー」と、日本の企業現場で原因分析に医使われる「フィッシュボーン」を比較しています。マッキンゼー社などが使う、MECE――全体として漏れがなくそれぞれが重ならない――分類の三原則を引き合いに出して、課題ツリーは分類の三原則に従うが、フィッシュボーンは従っていない。骨のそれぞれが排他的でないと言っています。

これも乱暴な議論ですね。分析ツールと、それを使う人の技術・能力の問題を一緒くたに扱っています。

ついでに、本書では「……を担保する」という表現が頻発します。文脈上から判断すると、単に「保証する」と言うことらしいのですが、一般人の理解としては、「土地を担保に借金する」という用例しか頭には浮かんできませんね。なぜことさらに「担保」を使うのでしょう。マッキンゼー社のいつもの口癖なのですか。


◆『日本的改革の探究 グローバル化への処方箋』 小笠原泰著、日本経済新聞社、2003/6刊


読書ノートIndex2 / カテゴリIndex / Home