■ 『お言葉ですが…』 日本語に二人称なし (2005.1.31)

高島俊男先生の日本語教室といったものだ。週刊文春の連載をまとめたもので、この『お言葉ですが…』シリーズは既に何巻も刊行されている。時に辛辣な社会批評が混じるが、中国語への高い見識に裏打ちされた鋭い指摘には毎回ドキッとする。

「日本語に二人称なし」とある。上海で経験したエピソード。日本語を勉強中の若者の言葉に対して同行の教師がとがめる。「学校で中国の『ニー』は日本語では『あなた』だと教わったものだから、『あたたがた』を連発するが、大まちがいだ。日本語には二人称はないんだ」と路上で講義を始める。

日本語に二人称がないことはない。君、あなた、おまえ。しかしどれも目下に対するものだから、これから日本語を学ぶ外国の青年にとってはないも同然であると。

それで気がついた。最近読んだノンフィクション、なにか読み難いと思ったが、いちいち「you」を「あなた」と訳していたためだとわかった。例えばこうである。

私はあなたが、たずねてこられたヘリコプターの問題についてあなたに助言するのは気が進みません。勿論、それは飛行機による散布よりはましですし、あらゆる形の散布に対して、一律に反対するのは現実的でないことも私は知っています。……

◆ 『お言葉ですが…』 高島俊男著、文藝春秋、1996/10


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