■ 『音楽のよろこび』 吉田秀和 VS 高城重躬 (2025-4-14)
音楽評論の吉田秀和にこのようなオーディオがらみの本があるとは知らなかった。吉田秀和とオーディオの神様と言われた高城重躬との対談である。
2人は同世代人であり、生年は1年しか違わない。いまは、お二人とも鬼籍に入っている。
◆吉田秀和 1913(T2)−2012(H24) (享年98歳) 1970年代当時 57歳
◆高城重躬 1912(T1)−1999(H11) (享年87歳) 1970年代当時 58歳
2人の活躍する世界があまりにも違いすぎること、さらにはその世界ではいずれも大御所である。
まさにソフトとハードの横綱どうしの対戦といったといった感があるのだが、どうだろう。
どんな対談になるのか興味津々だ。
目次(*)を見てみよう。12本の対談が並ぶ。相手は、高城以外はいずれも、クラシック音楽分野で一家言をもっている人物だ。
さて、吉田と高城の対談だが、期待するほどにはギスギスしたものではない。
内容から推察すると――シャルランレコードの輸入の話題があるとか、対談が行われたのは1970年代かな。
2人は50代後半の現役バリバリといったところ。吉田は高城邸に伺って自慢のオーディオシステムを聞いた(聞かされた)経験があるようだ。
<対談をひろってみよう>
◆(高城) 私は演奏に限らず虫の声でも,メトロノームのカチカチいう音でも、とにかく,本物と区別がつかないような音を再生するにはどうしたらいいか、
それをしょっちゅう研究しているわけです。しかしとても大変です。
◆(吉田) 一番むずかしいのはどういう点ですか。
◆(高城) 何もかもむずかしいですね。スピーカーについていえば、たとえば、パイプオルガンの低い音を出すには、どうしたって大きくなければ駄目です。
出口が2メーター近くもあるような大きなホーンとか。小さな家庭用のスピーカーからは絶対に出せない。
ピアノみたいなああいう衝撃的な音を出すのは、またとてもむずかしい。
普通の売り物のスピーカーでは、イギリスの世界一、なんていうスピーカーだって、本物のピアノの音は出ないのです。
◆(吉田) ぼくなんか全然気分本位で、あるレコードの音の持っている一種の癖っていうのかな、
それが気になり出したら全然レコードは聴く気がしないし、いつの間にかそういうことを忘れて、レコードでけっこう楽しんで、
ベートーヴェンのカルテットなんか演奏会場に行くよりも家で聴いているほうがいいなんて思ったりね。
…伝わらないというのは物理的なトランスファーじゃなくて、もう少しサイコロジカルな問題ではないかとは思うのです。
…いつかあなたのところで聴かしていただいた、機関車の音みたいなのは…。昔の初期の非常にプリミティブな自動車の音とか
――音楽評論家 Vs 原音再生オーディオ評論家の対決は終わった!
* <目次>
・来日演奏家から学んだものと学ぶもの 中島健蔵
・欧米のオーケストラと音楽生活 平島正郎
・最高の演奏家 遠山一行
・ヨーロッパでピアノを弾くということ 園田高弘
・録音と再生で広がる音楽の世界 高城重躬
・調律とピアノとピアニスト 斎藤義孝
・我らのテナー、歌とオペラ 藤原義江
・日本のオーケストラの可能性 若杉弘
・演奏と作曲と教育の場をめぐって柴田南雄
・ベートーヴェンそして現在――日本の音、西洋の音 武満徹
・音楽の恵みと宿命 堀江敏幸
・生と死がひとつになる芸術の根源 堀江敏幸
◆ 『音楽のよろこび』 吉田秀和、河出書房新社、2020年/10月
HOME | 読書ノートIndex | ≪≪ 前の読書ノートへ | 次の読書ノートへ ≫≫ |