■ ジョン・カルショー 『ニーベルングの指環』 新訳登場 (2007.9.10)
英デッカのレコード・プロデューサー、ジョン・カルショーの手記『ニーベルングの指環』をアマゾンから手に入れた。まだ書店には入荷していないようだ。山崎浩太郎さんの新訳。原題「リング・リサウンディング」。音響による《指環》の再構築ということか。
ウィーンフィルによる《ニーベルングの指環》全曲を初めて録音しレコード化したときの記録である。
黒田恭一さんの訳した旧版も、もちろん持っている。これは何回も新版発刊のアナウンスを聞いたものだが、ようやく、どういう経緯か山崎さんの新訳が世に出たようだ。ぼろぼろの古本にとんでもない値付けがされているのを見たことがある、YAHOO!のオークションだったかな。
新版はやはり読みやすさに気がつく。と同時に、いろいろと興味深いエピソードが満載で――もう何回も読み尽くしたはずなのだが、どうにもページをめくるのがもどかしい。
なかでも、ショルティとカルショーの遭遇のきっかけなど面白い。当時、ショルティがミュンヘンの音楽監督をしていたなんて失念していた。そういえば、この間、手にした、《ワルキューレ》第1幕のCDは、ちょうどこの時期のショルティの指揮を録音したものだったのか。
ほぼリアル・タイムに、この《指環》の録音から、そして国内版(ロンドン・レーベル)の発売という歴史につきあったことになる。特に最初にリリーズされた、あのショッキングな《ラインの黄金》のドンナーの一撃である雷鳴の轟きには、当時のレコード用のカートリッジではトレースできなかったものだ。
その頃の貧乏学生には、とてもオペラの全曲盤なんて手に入れることができず、高嶺の花であったが。
このデッカ《指環》の録音は、1959年の《ラインの黄金》から始まり、《ジークフリート》、《神々の黄昏》を経て、最後の《ワルキューレ》を取り終わったのは、1965年。7年を要した大プロジェクトであった。
この後、堰を切ったように、カラヤンなどの《指環》の全曲録音が続いた。
いまやライブ録音を含むと、《指環》の録音も何十種類とリリーズされているようだ。
いま思うと、カルショーの情熱のおもむくままに先導されて、ワグナーの世界にどっぷりと引き込まれたわけだ。
朝・夜・電車・寝室と読み継いで。全冊を一気に読了した。
それにしても前回にも感じたが、《ワルキューレ》の記述があっさりしていて物足りない。ページ数もほかに比べて少ない。この通り順調に完了したということか。
シークリンデ=クレスパンの絶好調ぶりが活写されているのは、ファンとしてうれしい。
読んでいるあいだ、ずーっと《リング》のモチーフが鳴り続けた……。もう、こんなにも情熱にあふれた、録音手記――壮大なプロジェクトの記録――を読むなんて機会はないだろうな。いまはCD〜映像の時代でもあるし、超豪華メンバーの歌手を集めて、オペラを制作するといっても無理のようだ。ほとんどが劇場公演のライブ収録ではないか
カルショーは、その後BBCのプロデューサーに転じたはずだが。どうしたんだろう?
活躍ぶりがちっとも耳に入って来なかったが。享年55歳とは!
旧訳(音楽之友社刊)と比較すると。
・訳文は読みやすい。付属資料も充実している。
翻訳を担当された山崎浩太郎さんに感謝・感謝……
・印刷文字のポイント数が大きくなった。これはロートル世代にはうれしい。
・挿入された写真がボケボケで残念。いかにもスキャナーで取り込んだ風に見える。オリジナルは入手できなかったのか。
・真っ赤な、それ一色だけの表紙はどうも品がない。原著がこうなのだろうか?かつてのデッカのLPジャケットのすばらしさとは雲泥の差である。比較しても意味がないが。
・500ページに近い大冊。ぼってりした紙質ではなく薄めだとうれしかったな。もちろんコストとのからみだろう。通勤電車のなかでつり革につかまって片手で持って読むにはちょっとつらいものであった。
◆ 『ニーベルングの指環 ―リング・リザウンディング』 ジョン・カルショー著、山崎浩太郎訳、学習研究社、2007/9
カルショーのほかの著作
◆ 『レコードはまっすぐに――あるプロデューサーの回想――』 ジョン・カルショー著、山崎浩太郎訳、学習研究社、2005/5 → こちら
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