■ 『老人力』 このところ充実してきた (2015.6.12)
このところとみに「老人力」が充実してきたと感じる。とくに人物の名前なんか完璧である。顔はしっかり思い出せるのだが、名前が出てこない。翌日になって、ようやくああそうだったと判明するのだから。
この「顔」だけはしっかり思い出せるという現象は、ヒトの脳の記憶メカニズムによるらしい、と何かの本で読んだ。顔 ――いわゆる画像の記憶は、ヒトがほ乳類の時代から生存のために、長い時間をかけて研ぎ澄ませてきた機能である。画像は脳の深層でしっかりと記憶される。
一方、言語とか文字の認識・記憶は、ヒトの長い歴史からみれば、ホモ・サピエンスとなり、まったく新しく獲得した機能でしかない。だから、それらは脳の浅い層で記憶されるという。
「老人力」という言葉の元年は1997年。言葉そのものは、路上観察学会―― 赤瀬川原平・藤森照信・南伸坊、の活動の中から発生したという。
仲間どうしで、えーと何だっけ、というのをお互いに繰り返している。こういうのを「あいつもかなり老人力がついてきたな」というふうに言っていた。そうすると何だか、歳をとることに積極性が出てきてなかなかいい。歳をとって物忘れがだんだん増えてくるのは、自分にとっては未知の新しい領域に踏み込んでいくわけで、けっこう盛り上がるものがある。
中古カメラは老人力だという。老人と同じく、どこか五体の一体ぐらいガタが来ているが、まだまだ働ける。。ボディにギックリ腰の過去があったりして、レンズにも多少白内障の傾向が出ている。シャッターもちょっと粘り途中で止まったりする。
始終体を動かして、いればいいんだ。いつも坂道を登っている老人は、90歳になっても坂道を登る。だからシャッターが粘っていたら、毎日シャッターを切る。もちろん空シャッターでいい。ストレッチみたいなものだ。毎日動かしていれば、そのうちにきっちり1秒で切れるようになる。
◆ 『老人力』(全1冊) 赤瀬川原平、ちくま文庫、2001/9
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