■ 『シン・中国人』 王侯将相いずくんぞ種あらんや  (2023-3-129)











中国の成長が著しい、2040年にはGDPはアメリカを追い抜いて世界第1位とのことだ(野口悠紀雄著『2040年の日本』幻灯舎)。そのとき、中国の富裕層人口は日本をはるかに凌駕している。日本は中国向けに、国内市場を超えた高級品を用意しなければならないだろ。

いま我々が知ることのできる中国の姿は、習近平体制のもと上意下達が徹底した息がつまるような監視社会ではないか。かつて話題となったあのゼロコロナ政策が忘れられないですね。そして、安全対策の旗の下、公道はもちろんレストランやマンション、さらには、タクシーの車内まで、市中のあらゆる所でカメラやマイクが稼働している。データは共有され全国網になっているのだろう。ビッグデータがものをいうデジタル産業の発展にとって、他国では真似できない有利な状況だ。

ここ10年、中国――とくに農村部は激しく変わった。交通の便が良くなり、経済作物の販路が広がった。農民の現金収入は目に見えて増えた。貧困県でも中心部の学校や目抜き通りの商店街、立派な地元政府機関が驚くほどのスピードで整備された。

本書はいまの中国の民衆社会の細かな実態を、エピソードをまじえて教えてくれる。こんなこととか、隔世の感があるのがトイレだという。靴で乗った跡のある洋式トイレにはもうお目にかからないという ――かつては腰掛け型のトイレが珍しかったのだ。

女性の社会進出が進んでいる。離婚率(人口千対)をみると、日本1.57(2020年)に対し、倍の3.36(2019年)だ。経済的に圧倒的に自立しているので、不和になった際に我慢せずにすぐに離婚に至りやすいのだろう。
新婦の母親は、新郎に初めて会うとき、3つの鋭い質問をするそうだ。家は有るの?車は有るの?お給料はいくら? と。この男性が、娘が幸せな一生を送れるようにしてくれるかを測っているのだ。不動産は持っていれば必ず価値が上がるという常識もある。

20代、30代の若い世代は急速に潔癖症に変身しているそうだ。シャワーの頻度はもちろんだが、驚いたのは洗濯に関して、おそらく日本以上に神経質なこと。赤ちゃんの服や自分の肌着を洗濯機で他の物と一緒に洗うのは「汚い」と感じる人が多い。中国の洗濯機には別洗い専用のミニ洗濯機というジャンルまであるそうだ。ごみ箱程度で殺菌機能などがついている機種が人気。

中国の若者たちは徹底して英語を勉強している。海外文化や情報の吸収には敏感だ。彼らは世界中で全方位に食指を動かしている。多くの中国人は自分の道は自分で切り開いて成功させるという志を持っている。これが近年の中国の驚異的な発展を支えた活力でもある。

王侯将相、いずくんぞ種あらんや」という心情だ。王侯や将軍・宰相となるのは、家族や血統によらず、自分自身の才能や努力による、という実力主義の哲学が根付いている。誰もがチャンスをつかんで実力勝負で全力でトップを狙う。徹底的に実力を尊ぶメンタリティーがある。自分のことは自分の実力次第。自分の責任でやり抜くと覚悟を決めている。これは中国の人がもつ成熟した大人の態度で、最も尊敬する中国らしさである。


◆ 『シン・中国人 ――激変する社会と悩める若者たち』 斎藤淳子、ちくま新書、2023/2

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