■ 『進化論を書き換える』 進化とは発生プロセスが変わること (2011.10.26)
現代の進化論の大きな問題は、無脊椎動物から脊椎動物といった異なる類型への進化はどのようにして、どんなメカニズムで生じたのかということだという。本書は、近年明かになってきた進化のメカニズムを、著者の25年来の主張である構造主義進化論に則して解説したもの。
ダーウィンは自然選択により適応的な形質が作られるとした。その後、メンデルによるエンドウの交雑実験によって、遺伝の原因(遺伝子)の存在が明らかになった。ネオダーウィニズムでは、遺伝子の突然変異は微細であるが、突然変異よって新しく生じた遺伝子が増加したり消滅したりする、その繰り返しを進化であるとする。そして、遺伝子の突然変異、自然選択、遺伝的浮動、といったもので進化のすべてを説明する。
進化の主因は様々なレベルでの形態形成システムの変更であると著者はいう。ネオダーウィニズム的プロセスは種内の小進化のようなマイナーなプロセスに関与しているにすぎない。単細胞生物から多細胞生物へ、無脊椎動物から脊椎動物へ、といった、大きな進化はどのようにして起こるのか、ネオダーウィニズムでは説明できないと。
四足動物への進化は、ある魚類が足を獲得したことからはじまったのだ。何はともあれ、水中生活する魚にまず足が出来たこと。ここから両生類への進化が始まった。少なくとも最初のステップは自然選択による進化ではない。
進化とは発生プロセスの変更である。DNAに変異が起きても、発生のプロセスに変更が生じなければ進化は起きない。クリティカルなゲノムの変化が発生プロセスの変更と同時に卵の初期条件を変え、初期条件の変化はゲノムの発現パターンを変更させる、といったことの繰り返しが、生物の形態を大きく変化させたプロセスだろう。
生物は38億年前に誕生した。カンブリア紀(約5億4000万年前〜)になると、爆発的な多様化が起こり、様々な形態をもつ動物たちが一挙に出現した。この多種多様な動物たちは、それぞれに固有な新しい遺伝子を開発したわけではない。先カンブリア時代の共通祖先がもっていた遺伝子たちを適当に使い回していただけらしい。複雑な形をつくるための遺伝子はすでに用意されていて、形の違いはもっぱらそれをどう利用するかの使い方の違い――発生プロセスの変更につながる。
生物発生の過程で、ある特定の時期に、特定の細胞で、特定の遺伝子が発現するためには、その時その場所でその遺伝子を制御するスイッチがオンになる必要がある。正常発生のときは、これらの遺伝子は時間軸に沿って整然と発現する。遺伝子が壊れているとか、スイッチが異常になったりすると、発生プロセスが正常に遂行されない。ひどい場合には胚は死んでしまう。器官形成期以前の初期発生では、関係する因子の数は少ないので、変化した胚が生き延びる可能性は少しはある。
もし万一、生き延びてなおかつ形態が大きく変化すれば、これをきっかけに生物は大きく進化するかもしれない。問題は遺伝子の発現場所やタイミングを変更させる究極原因はなにかということ。著者によれば、環境変動が遺伝子発現の違いをもたらし、これが固定されるメカニズムもあるのではないかと。
◆『「進化論」を書き換える』池田清彦、新潮社、2011/3
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