■ 『テクノリテラシーとは何か』 JR西日本は大丈夫か (2005.5.27)
「テクノリテラシー」とは著者の造語のようである。既存の技術を深く知ると同時に、新しい技術を取り入れること、そしてそれに関わる制度の意味を知ること。すなわちテクノロジーの読み書き――これを「テクノリテラシー」と呼んでいる。著者は、このテクノリテラシーが、現代社会を生きる我々にとって必須のテーマであると主張している。
JR福知山線の事故 (2005.4.25) を見るとき、このテクノリテラシーの必要性を強く再認識する。
六本木ヒルズでの回転扉のトラブルのように、いったん深刻な事故が発生すると、製品を支えている基本的なテクノロジーが再点検され、同時にそれと対応する制度が見直される。回転扉のセンサーによる検出範囲や安全基準の問題などである。本書では、多様な側面を含んだ事故を取り上げている。事故を貴重な教訓として、そこからテクノリテラシーを学ぶことが必要だという立場だ。
製品あるいはシステム――本書では人工物と言っている――を作るうえでエンジニアの果たす役割は大きい。製品の設計は、さまざまな部品を組み合わせることである。自動車は3万点の部品から成り立つという。組合せに基づく複雑性の問題がつねにつきまとう。そのために思わぬ副作用が製品やシステムにエラーをもたらすのだ。
エンジニアは局所的な最適化はできるにしても、全体的な最適化はできない。複雑な部品を統合し、さらにヒューマンインターフェイスまでを含めて、すべてに配慮して製品を設計することはできないはずだ。その結果、事故やトラブルが起こる。事故を防ぎ安全を確保するためには、いままでの事故事例を分析し、その原因が複雑な因果関係にあることを認識した上で、テクノロジーの追及だけではなく、社会のデザインがどうあるべきか――社会制度の問題――としてとらえなければいけない。
本書では、コメット空中分解事故(事故調査と新規開発の問題)やスリーマイル島原発事故(ヒューマンファクターの問題)など7つを取り上げている。
情報システムとしては、みずほ銀行のシステムトラブルを挙げている。情報システム開発の課題としては、顧客がエンジニアに対して要求を明示化して伝えることの難しさ、もうひとつは、情報システムの設計と構築という問題があるだろう。
大規模なシステムにおいてはバグ(プログラムの欠陥)をなくせないために、問題を潜在させることになる。だからソフトウェア製品では、製造の管理よりも設計の管理が大きな問題となる。一方で、ソフトウェア工学が、まだ成熟した工学になっていないという証左だ。たたえば、家の建築に代表されるように、欠陥の発見が容易で対処法も確立されているというのが、成熟した工学の姿である。
◆ 『テクノリテラシーとは何か 巨大事故を読む技術』 齊藤了文著、講談社選書メチエ、2005/2月刊
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