■ 『<使い勝手>のデザイン学』 完璧なデザインはない (2008.8.9)
いつものペトロスキーの語り口――日常身の回りにある何気ない品物をとりあげて、その作り上げられた過程――設計(デザイン)の着眼点をあからさまにする。取り上げる視点のユニークさに感心する。
例えば大型橋梁の設計についてはこちらだ →『橋はなぜ落ちたのか 設計の失敗学』
今回俎上に並べられているのは次のようなものである。
円筒形のグラス、懐中電灯、車のカップホルダー、スーパーの買い物客の通路、それにスーパーのレジ袋(紙袋)、などなど。
例えば、かつてはどこのスーパーでも見られた、紙袋。あのレジ袋に、完成されたスタイルに近づくまでに、これほどまでに設計や製造のアイデアが注ぎ込まれているとは、初めて気づかされた――いかに効率よく紙を切り出して接着し袋状に仕上げるか、レジでスムーズに拡げることができ、自分で直立しなければならないとか。
この紙袋に最初に取り組んだのは、19世紀のアメリカで最も有名な女性発明家と言われる、マーガレット・ナイトとのことだ。
1970年代なかばにアメリカのスーパーで、ポリエチレンのレジ袋が登場すると、この紙袋も一夜にしてあっという間に席巻され、スーパーから消え去ってしまったのである。
レジ袋の特徴――軽い、かさばらない、かなりの重量の引き延ばしに耐える、防水性、持ち運びに便利な手が着く。それに経済性が、紙袋に取って代わった何よりもの理由であった。
本書で繰り返されるテーマは、デザインとは何かということ。
ペトロスキーによればこうだ。
・複数の相反する目的を満たすこと。折衷しないわけにはいかない
・良いデザインというものは、目で見ただけではわからない。自分の手で持ち、そこに座り、あるいはそれに飛び乗ったり、飛び降りたり、したときに納得できる
・実用品の発明家や設計者は、科学の法則と経済の法則の枠内――重力と予算の現実を受け入れて、価格にも注意を払わざるをえない
・デザインされたものの多くは「万人向け」だから、誰かに完璧にマッチするとしても、それは統計上の偶然にすぎない
◆『<使い勝手>のデザイン学』 ヘンリー・ペトロスキー著/忠平美幸訳、朝日新聞出版、2008/6
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