■ 『貝と羊の中国人』 ホンネとタテマエ (2008.7.21)



北京オリンピック開幕まで、もう1カ月もない。大気汚染とかでマラソンは大丈夫なのだろうか。野口みずきの隠れ応援団としては気になるところだ。中国関連の書籍が店頭に平積みされているなかで、ユニークな題名に惹かれて、手に取ったのが、この新潮新書である。読みながら、「そうなんだ!」と何回もうなずいてしまった。

現代の中国人には、遡ること三千年前の2つの種族、殷と周のそれぞれの気質が受け継がれていると言う。
の本拠地は豊かな東方の地。殷人は目に見える財貨を重んじた。当時、貨幣として使われていたのは、遠い海から運ばれてきた「子安貝」だった。有形の物財にかかわる漢字、すなわち寶・財・費・買などに「貝」が含まれるのは、殷人の気質の名残である(そうなんだ!)。

いっぽう人の先祖は中国西北部の遊牧民族。周人は羊と縁が深く羊こそが宝であった。周人は唯一至高の神である「天」を信じ、物質的な捧げものより、善や義や儀など無形の善行を好んだ。義・美・善・養・儀・犠など、無形の「よいこと」にかかわる漢字に「羊」が含まれるのは、周人の気質の名残であるという(そうなんだ!)。

殷人的な気質を「貝の文化」、周人的な気質を「羊の文化」と呼べるだろう。一方にホンネとしての「貝の文化」があり、もう片方にタテマエとしての「羊の文化」が考えられる。2つの異質な性向が中国人の血肉となっているのだ。

華僑の商才に象徴される中国人の現実主義は「貝」であり、儒教や共産主義に象徴される中国人のイデオロギー性は「羊」であると。著者は、今日の中国共産党も、このタテマエとしての共産主義と、ホンネとしての経済建設の双方を、たくみに使い分けているという。
かつての毛沢東は、貝の文化(ホンネ)を全面的に否定し、文化大革命へと羊の路線(タテマエ)を突っ走り、中国は崩壊寸前にまで追い込まれた。その失敗を反省し、ケ小平は改革開放路線をとった。羊と貝の二本立ての復活である。

2005年4月の反日デモにおいても、貝と羊の使い分けが見られたと著者はいう。政府の愛国教育は、羊である。日本との経済関係は維持したいというホンネは貝である。

◆『貝と羊の中国人』 加藤徹、新潮新書、2006/6刊

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