■ 『「分かりやすい文章」の技術』 アリバイ型文章もある (2008.7.15)
新古書店・ブックオフの店頭に、この本がまとまって数冊ほど積んであった。この時期、学生がちょうど卒論などを書き終わって、もう不要だということで古本屋に持ち込んだものだろうか。手にとって見ると、それほど読み込んだ形跡はうかがえない。ほとんど新品である。この価格では文句は言えない。
本書が目指すのは、実務文において「目的を達成する文章」の書き方の紹介とのこと。実務文には,はっきりした目的があるという。たとえば請求書では、指定銀行に代金を期日までに振り込んでもらうことが目的であるとする。――その実務文の使命とか役割と言ったことですね
冒頭、第1章に「分かりにくい文章」の例として、ATMに表示されるメッセージが挙げてある。肝心なことが書かれていないという例文だ。そして、正確に伝えるために、書き直しをしたものが掲げてある。原文は1行であるが、書き直し後は5行になっている。しかし、この書き直した例文を、ATMのユーザがきちんと読んでくれるとは、とても思われない。
目的論に立ち返れば、文章を書くことそれ自身が目的となっている場合がありそうである。とりあえず注意jを促すの文章を書いておいて、事故が起きたときの言い逃れにするとか。免罪符ですね。たった1行でもよいから議事録を書いて取締役会が開催されたという記録を残すわけだ――これをアリバイ型文章と私は言いたい。
身の回りを見回すとこのアリバイ型文章があふれているようだ。本書では、このアリバイ型文章を題材として、いろいろ改善策を示しているが、あまり効果は少ないのでは。例文として挙げられた――ATMに表示されるメッセージ、にしてもこのアリバイ型文章の気味がありそうだ。
実務文には「斜め読み耐性」が必要だという。実務文は、全文を必ず読んでくれるという前提で書いてはいけないというわけだ。途中で放棄されることも考えることと。「斜め読み耐性」という言い方――もうちょっと分かりやすい表現にならないか?
実務文と違って芸術文は読み手が必ず読んでくれるという前提があるというが、そんなことはないと思う。芸術文こそ、読者の興味を引かなかったら、即座に放り出されるだろう。
◆講談社ブルーバックス『「分かりやすい文章」の技術』藤沢晃治著、2004/5月
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