■ 『山の博物誌』 涼しい木陰で読みたい (2011.6.27)
この文庫本は、古本屋の片隅でひっそりとほこりをかぶっていたのを拾い出したもの。
このところ、1980年前後に刊行された中公文庫に目を着けていたのだが、その捕獲網にひっかかたというわけだ。
著者・西丸震哉は、1923年――関東大震災があった、の生まれというから、もう90歳近くである。
うかつなことに、今まで西丸震哉の本は読んだことがなかった。こんな素敵な、自然へのガイドブックを見過ごしていたなんて残念。
読み始めた途端に、まわりに山の空気が充満していくように感じる。
さわやかな風の吹き抜ける木陰で、この本を読むことができたら、最高の贅沢ではないか。
山の動物とのつきあいがならんでいる。ニッポンザル、キツネ、タヌキ、……。ツキノワグマとバッタリ出くわし視線がピッタリ合ってしまったそうだ。
ビッケルをにぎりしめてながいニラメッコとなった。結局精神力の戦いになったそうだが、クマが逃げたあと、ヘナヘナとすわりこんで30分くらい立てなかったという。
つづいて、鳥、魚、昆虫、……。ウグイスの声を十分に味わいたければ、どうしても初夏の頃に高原へでも行かなければならないという。高原のすがすがしさには、小鳥の歌声がかなり関係している。ウグイスの鳴かない高原など、ワサビを忘れた刺身みたいなものだと。
ウグイスとは意思が通じるらしい。ヤブの中から、ホーと長い前段がきこえてくると、ついじっとして耳をすます。澄んだ高音で、スパッといったときに、思わすウマイッと叫ぶと。テレパシーで、声のヌシにもわかるとみえて、得意になっていくらでも聞かせてくれる。おまけまでつけて、谷わたりをケキョケキョケキョといつまでもやるという。
もちろん、ガイドブックとしての情報も書きこんである。マムシにかまれたら、とりあえずの処置はどうすればいいのか、山の植物の基礎知識とか。
◆『山の博物誌』 西丸震哉、中公文庫、昭和61(1986)年
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