■ 『人工知能が得る仕事の未来』 ディープラーニングとは (2017.6.21)
人工知能(AI)ブームとか、このところかまびすしい。自動車の運転はすでに実用化レベルに達しているのだろうか。なんとかAIの本質を捉えるべく本書に取り組んでみた。持ち重りのするかなりの大冊である。とても、全部を読了することはできなかった。かろうじて理解したのは、いまAIの中心テーマとなっているのは「ディープラーニング」の技術らしいということ。それに、中国の取り組みが、圧倒的にパワフル、かつ長期的視野をもっている。日本はいかにも場当たり的である。
今回のAIブームのきっかけとなったのが「ディープラーニング」だという。画像認識――デジタル写真に写っている物が何であるかを言い当てる課題で、トロント大学のディープラーニングの方式が最高の成績を収めたから。テンプレート画像と比較照合する方式を寄せつけない高成績だったそうだ。
「ディープラーニング」はニューラルネットを原型としている。脳が備えているニューロンによる学習機能を模倣した仕組みと言えるだろう。ディープラーニングの本質は、画像や音声について専門家の識別能力を写し取ってしまうこと。入力側と出力側に正解データ(生データ)のペアを多数並べてトレーニングすることで、新たな認識・識別能力を獲得できる。第一の特徴は、プログラミングが不要であるということ。対象のモデルに基づいて規則や計算式をプログラミングするかわりに、入力と出力の組み合わせ(たとえば画像とそのタイトル)を次々と与えていくだけで自動的に学習が進む可能性をもっている。入出力に様々なものをセットできるので汎用性が高くコストも安い。
今まで、ニューラルネットは、方式の改良や様々な学習(トレーニング)実験が進んできた。当時の計算機パワーは現在よりはるかにプアーだったために、高々数百個のニューロンを用意しただけで、学習速度が加速度的に遅くなって、頓挫してしまった。現在のニューラルネットによる画像物体認識タスクでは、計算機パワーを利用して――スピードは5桁のレベルでアップしている――大量の生データ(ビッグデータ)を投入すれば、どんどん認識精度が上がっていく可能性が実証されている。
ディープラーニングによって、AIの実用性は飛躍的に高まったという。中心テーマは、"認識・認知能力"。画像認識のサービス化はいろいろ考えられている。たとえば、医療向けに広く予備的診断・モニタリングなどを提供することなど。米国では、レントゲン画像の機械学習によりガンの発見を人間の医師より正確に行う学習ソフトウェアを開発する企業などが産まれている。
最近の人工知能ブームを支えるディープラーニング、ビッグデータ、IoTの特性から考えて、AIの産業化・普及に関する現状を、6つの観点から、日米欧・中国のAI産業化を比較してみよう。
<表> AI産業応用の強さ:日中米欧の比較
日本
中国 米国 欧米
1 危機感にかられた競争意識 △ ○
◎ △
2 ビッグデータ保存度・活用度 ○ ◎
◎ △
3 ソフトウェア専門学科の定員 × ◎ ◎ ○
4 ハードウェア開発・サービス化 ○ ◎ ○
○
5 ロボット・AIを受容する下地 ◎ ○
○ △
6 哲学、宗教観に基づくビジョン × △ ○ ◎
日本に対する指摘は厳しい。もともと、欧米・中国などではソフトウェア開発者を建築家、デザイナー、アーティストとならべて評価してきた。それに比べると、日本の大企業ではソフトウェアQCなどの言葉で、ソフトウェア開発者を工場の組立工のように見なすところがあった。このようなソフトウェアの研究開発を矮小化してきた悪しき伝統を捨て去るために思い切った施策が必要だという。
中国はビッグデータを強制的に利用できることから、機械学習系の技術開発が有利である。ドイツの自動車メーカーが深く入り込んでいて、研究面、ノウハウ面で協力して実証実験が急ピッチで進みそう。さらに、中国では多数のユーザーを巻き込んだ超大規模な社会実験が可能である。アクティブユーザーが6億人を超えるというSNSが存在するのだから。
人材面では、人文科学系への注力、そして創造性を引き出す教育に大きく舵を切るためにも、芸術系の学部こそ育成し振興しなければならないだろう。ヒトがAIに勝つためには、「なぜ?」とつよく考察することが必要だ。。そもそもAIには、強い動機づけや責任感、倫理観といったものがないのだから。
◆『人工知能が変える仕事の未来』 野村直之、日本経済新聞出版社、2016/11
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