■ 『小さな美術館への旅』 (2001.5.29)
思わず誘いこまれるタイトルである。店頭でつい手にとってしまった。「小さな」とは、一人の芸術家、あるいは一つの主題にこだわる、ということであろうか。不遇なまま地方に埋もれてしまった画家、生活の苦しさの中で若くして命を絶った画家に、著者の目線は強く注がれるようである。それほどまでに彼らを突き動かして、作品にまで表出させたものは何だろうか。彼らの作品を守って多くの個人美術館がある。これらをたどる旅でもあるようだ。
棟方志功、土門拳、岡本太郎など世に聞こえた名前がある。しかし、ほとんどが少なくとも評者には初めて聞いた名前である。木田金次郎、神田日勝、相原求一朗、……。北海道の大草原を背景にするもの、雪に埋もれてひっそりと建つもの、山道をのぼりつめたところに、旧家の土蔵をそのままに、全国で合計40の個人美術館を取り上げている。
今、美術館を探るだけであれば、インターネットを使ってピンポイントで検索することができる。交通の便とか必要最小限のデータは記載してあるものの、本書はいわゆるガイドブックとは違う。著者はひとつ一つの美術館をていねいに訪ずれている。この本では繊細なエッセイを楽しむことだろう。美術館の周りの空気、木々のさざめきが聞こえてくる。建物のイメージが浮かぶ。そこに画家の葛藤の日々を重ねている。ゆったりと読みたいもの。
美術館へのアプローチの描写に臨場感がある。そして、「こんなところに、こんな美術館があったのか」という新しい発見の喜びを与えてくれる本でもある。出張用のカバンの底に放り込んでおいて、ちょっと時間が空いたらページを開いて足を延ばしてみる、そんな読み方も良いのではないだろうか。
「三岸好太郎」をキー・ワードにして本書を読んでみよう
まず札幌に三岸好太郎美術館がある。《海と射光》 (「斜光」は誤りでしょう)は福岡市美術館の所蔵なので残念ながら常設では鑑賞できない。ここから当然、三岸節子へリンクして欲しいもの。インターネットであれば得意技であるが。尾西市の三岸節子記念美術館では、まわりの水路はヴェネチアの運河をイメージしていたとのこと。もうひとつ名古屋の「ヒマラヤ美術館」も仲間に加えて欲しかった。
→ 名古屋探訪 三岸節子美術館 はこちら
→ 三岸好太郎 《海と射光》 はこちら
こまかい注文
・やはり、画家の名前などの索引があるとうれしい
・簡単な経歴を紹介して欲しい、少なくとも生年と没年ぐらい
もちろん文中にも書いてあるのですが
・画家の名前にはふりがなを付けてほしい
◆『小さな美術館への旅』 星瑠璃子著、二玄社、2001/3 (一ツ橋アーツ社のインターネット「銀座一丁目新聞」の連載に手を入れたもの。3年間にわたる個人美術館めぐりから、40館を選りすぐり、さらに巻末におススメ36館の情報を追加)
◆星瑠璃子 (ほし・るりこ) 東京生まれ。1958年、日本女子大学文学部国文学科卒業後、河出書房新社に入社。のち学習研究社に転じ、女性文芸誌「フェミナ」の創刊編集長。1993年独立し、ワークショップR&Rを主宰して執筆活動を始める。共著に『桜楓の百人
―日本女子大物語』(1996年、舵社)がある。母は画家の星郁子(93歳)。祖父は画家・高木誠一郎・背水。
■ 読書ノートIndex1 / カテゴリIndex / Home