■ 『起業家エジソン 知的財産・システム・市場開発』 (2001.3.24)




エジソンの本を読んだのは小学校以来であろうか。「天才とは1パーセントの閃きと99パーセントの汗である」、この言葉は人口に膾炙している。そして、白熱灯の発明でフィラメントの材料を模索する中、遂に日本の竹に巡り会うエピソードは身近かなものである。今まで単なる個人発明家として刷り込まれていたエジソン像が、本書を読んだことで、よりスケールの大きな起業家――ビジネス創出者として浮かび上がってくる。

著者の観点は独特である。先の「天才とは……」の言葉についても、この中に反エリート主義があるという。エジソンは、社会の多数派とおなじ価値観を臆面もなく語ることに特徴があり、才能は氏でもなければ育ちでもない、とのメッセージだというのだ。また、汗が不可欠という労働礼賛のメッセージでもあると。

副題の「知的財産・システム・市場開発」から窺われるように、著者はエジソンの発明の系譜を大きく3つのテーマで捉えているようである。

◆(1)知的財産
エジソンは自分の発明を特許として所有し、特許(知的財産)を核にしてかれの事業を展開した。新しいビジネス・モデルを創成したのだ。エジソンは発明工場を発明したとも言われる。サイバネティックスで有名なウィナーによれば「大きな訓練された技術者のチームが一人の中心人物(エジソン)の指揮の下で日常業務として発明の仕事に取り組んだ」とのこと。

◆(2)システム
電力事業はエジソンが30歳代から40歳代前半にわたってうちこんだ仕事であった。ここでエジソンは、発明の対象を白熱灯や発電機というような個別の技術だけでなく、電力ネットワークというシステムに拡げた。エジソンの独創である。

電力事業は、2つの要素技術をシステム的発想で組み合わせたもの。第1の要素技術は白熱灯、第2の要素技術は発電機である。エジソンは発電機と白熱灯のほかに、電力計、地下導線、ソケット、ヒューズ、スイッチなども自前で設計し、かつ製造した。加えて、その経済性、安全性を評価し、同時に、研究チームや工場を新しく組織化した。しかも、これらのすべてが調和してなければいけなかった。

エジソンの第1の独創は並列接続としたこと。電力を小分けするためには白熱灯を「並列」に接続しなければならないと考えた。直列であれば、1灯あたりの抵抗が小さくないと大電流が必要となる。しかも、どこかで1灯でも故障してしまうと全システムが停止してしまう。並列ではこのような欠陥を避けることができた。第2の独創は、並列接続を実現するために電球の仕様を小電流、高抵抗にしたこと。

◆(3)市場開発
「必要は発明の母」というが、必要もないのに発明されてしまったものが蓄音機との言葉があるそうだ。蓄音機の応用例としては、はじめ口述筆記などの会話保存用の道具として考えていた。しかし、信頼性の問題から、口述機の市場からは退出した。そのあと録音機能を外し、再生機能だけの装置を生産販売した。これが、再生用媒体――レコードの生産という新しいビジネス(市場)を創出することになった。


◆『起業家エジソン』 名和小太郎著、朝日新聞社、2001/3


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