■ 『ザ・ゴール』 企業の究極の目的とは何か (2001.9.2)

ちょっとかったるい本である。売上げ減少の危機を脱して工場を建て直すビジネス・ストーリーと、夫婦の離婚問題をからませた小説仕立てである。中途半端なスタイルであり、背景としても陳腐なもの。本来の、新しい生産管理手法の主張に絞って重点志向で記述すべきであったと思う。原著の出版は1984年。

主人公は工場の所長 アレックス。偶然で出会った恩師(物理学者)の指導を受けて、3カ月で工場を建て直す。
中心となるテーマは、TOCという生産改善の手法。

TOCは「システム改善のツール」 (Theory of Constraints=制約条件の理論) である。現場での個別の工程の生産性や品質の改善ツールではなくて、あくまで企業とか工場全体を一つのシステムと見なし、そのシステムの目的を達成するための改善手法である。

企業の究極の目的を「現在から将来にかけて金を儲け続けること」と定義する。企業が金を儲け続けるには、@スループットを増やすか、A在庫を減らすか、B経費を減らすという3つの方法しかない。TOCでは、このうちスループットを増やすということが最も重要なことで、次いで在庫を減らすことであり、経費節減は重要性が低いとしている。

スループットとは販売を通じて金を儲ける割合のことで、売上げから資材費を引いた金額に等しい(言い方を変えると「粗利益」であろうか)。ボトルネックがある場合。工場全体の生産量はボトルネックの生産能力で決まってしまう。さらに統計的バラツキがある。生産の途中で起こるさまざまな不測事態である。

TOCの基本原理は、第一に工場全体のアウトプットを上げるためには、ボトルネック工程のアウトプットを最大限にするように工場内の改善努力をそこに集中させること(ボトルネックへの集中)。
第二基本原理は、ボトルネック以外の工程では、ボトルネック工程より速くモノを作ってはいけないということ。つまりボトルネック工程と同じペースで動かす。こうすれば工程の間に余計な在庫はできない。結果として製造期間は短くなり、顧客の注文を確実に短期間でこなせることになる。


おわりに本書から、監査チームの厳しい仕事振りを抜き出してみよう。

2日後、本部から監査チームが工場にやって来た。監査チームを率いるのは、ユニウェア部門の副経理部長……
ドカドカと入って来たかと思ったら、あっという間に会議室を占領されてしまった。製品コストを決めるベースを変更したことは、あっけなく見破られてしまった。
「これは、ルール違反だ」そう言いながら、ニールは眺めていた資料から顔を上げ、メガネ越しに上目づかいにこちらを睨みつけた。
監査チームの5人は、冷たい表情で私とルーの顔を眺めていた。この連中に何を言っても無駄だ。決められたルールしか頭にないのだから。



◆『ザ・ゴール』 エリヤフ・ゴールドラット著、三本木亮訳、ダイヤモンド社、2001/5

◆エリヤフ・ゴールドラット イスラエルの物理学者。1948年生まれ。TOC(Theory of Constraints) 制約条件の理論)の提唱者として知られる。本書で説明した生産管理の手法をTOCと名づけ、その研究や教育を推進する研究所を設立した。


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