企業はイノベーションをめぐる組織や専門技術、方法論や実践例を知りたがっている。本書は、そうした要望に応えるために、IDEO(アイデイオ)社の4000余りの新製品開発プログラムの「最前線」で得た経験のエッセンスを抽出したもの。
IDEO社は、アップルのマウスとかハンドヘルド・コンピューター
「パームX」のデザインを担当したことで有名である。NECのノート・パソコン「パーサ」製品シリーズの開発に当たって、フロッピーディスク・ドライブとバッテリー・パックを交換可能にして営業員の外出時の負担を軽くするとか、画面を顧客側にくるりと回してプレゼンできるようにしたとか、今では普通に見られるこれらのアイデアを提案したのもIDEOである。
カラフルなページがあふれている、ページをめくるごとにさまざまなアイデアに刺激される本である。日頃職場で、頭が固いと言われている人には特に読む価値があるだろう。オフィスの天井から自転車が吊されていても、びっくりしてはいけない。隣の机の下に犬がうずくまっているかもしれない。ウォールストリート・ジャーナル紙は、IDEOのオフィスを「創造力の遊び場」と呼んだ。
イノベーションには、5つの基本的なステップがあるという。単純な子供の玩具を考えるにしても、インターネット・ビジネスを立ちあげるにしても。(1)理解
→(2)観察 →(3)視覚化 →(4)評価とブラッシュアップ →(5)実現、と続く。まず、市場、クライアント、テクノロジーなどの制約事項を理解すること。そして、現実を観察し、なぜ人がそうするかを見つけだすこと。それを使う顧客の姿を目に見えるかたちで描き出すこと。そして、いくつものプロトタイプをつくり、それを繰り返し評価し、練りあげていく。新しいコンセプトを市場にだすために、開発の段階で最も長く、技術的に最も難しいのが実現のフェーズだ。
IDEO社にとってブレインストーミングはアイデアのエンジンであるという。よいブレインストーミングのためには秘訣がある。まず焦点を明確にすることが第一であると。焦点を絞ったテーマの提示から始まるのだ。
例えば、「中身がこぼれないコーヒーカップの蓋」というのは、あまりに限定されていて、すでに答えがわかっているので適当なテーマではない。また、「自転車用カップホルダー」、ではあまりに製品に重点がおかれすぎている。よりよいテーマとしては、「自転車に乗る人が、こぼしたり舌を火傷したりせずにコーヒーを飲めるようにする方法は?」とするのが良いだろう。参加者がより深く取り組める具体的なテーマを提示することであるという。
ブレインストーミングやプロトタイプ製作はイノベーションの基本であるという。そしてオフィスの重要性を最後に言及する。イノベーションにはチームが必要であり、チームには生育し成長する場所が必要であると。イノベーションは温室で豊かに花開く。オフィス・スペースを、IDEOではこれを第一の資産の一つと考えているのだ。スタッフのクリエイティビティを財産とする会社は、社員にスペースを自由に扱う権利を与えるものだという。
◆『発想する会社! 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』 トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、鈴木主税・秀岡尚子訳、早川書房、2002/7
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