■ 『インドIT革命の驚異』 インド文明とITの接点 (2001.9.2)
シリコンバレーの技術者の3割から4割は、ICと称されるインド人(Indians)と中国人(Chinese)とのことだ。インドのソフトウェア技術者の数は世界第2位。34万人とも50万人とも言われる。いまインドではソフトウェアを輸出の切り札にしようとしている。輸出の形態には2つある。@「オンサイト・サービス」、顧客がいる現地(国外)に技術者が出向いてサービスを提供するもの
(派遣か?) と、A「オフショア・サービス」、インド国内から海外顧客向けのサービスを提供するもの、データ通信の発達によってこれが可能になった
(請負か?)。1999年度の輸出は40億ドル、うちオンサイト=58%、オフサイト=42%。輸出が拡大するきっかけとなったのは、例の2000年(Y2K)問題だという。
注目すべきは、インドのソフトウェア企業のレベルが高いこと。例えば、ソフトウェア企業300社のうち、半数以上の170社がISO9000の認証を受けている。また、CMMの最高位のレベル5の認証は全世界で23社しかないが、インド企業が16社までを占めるそうだ。
よく知られているように、ゼロはインドで発見された(吉田洋一著『零の発見―数学の生い立ち』)。またアラビア数字の位取り記数法もインドを発祥の地としている。膨大な数を取り扱う場合、インド記数法は必須のものである。このような歴史が、伝統的に数学のような抽象的な学問を重んじてきた。このため、インドでは数学と科学が知的教養として長年重視されてきたため、学生の多くは数学と科学が好きである。これはソフトウェア産業が成長する大きな素地となった。
インドがIT産業(ソフトウェア)で急激に飛躍した理由は、2つに集約できるという。「人材」と「情報・通信技術の発達、経済のグローバル化」である。
@「人材」。優秀で質の高いエンジニアが豊富に供給されること。そして英語ができること。インドの人口は10億を超えるが、そのうち高等教育を受けられるミドルクラス層(中産階級)だけでも2億人ほどいる。しかも20代、30代の人口が多い。高等教育の充実とミドルクラスの増加、そして急激な都市化が現在のインド経済の活力になっている。
A「情報・通信技術の発達、経済のグローバル化」。オフショア・サービスに代表されるように通信技術の発達がなければ、これほどまでにソフトウェアを輸出するのは不可能であった。またアメリカなどの国際企業が、ソフトウェアをはじめあらゆる資源を世界中から調達するという「経済活動のグローバル化」も基盤にあったはずだ。アウトソーシングの流れと言ってもいい。
インドを代表するIT企業のウィプロ社はインドのハイテク都市バンガロールにある。ウィプロ社の本業は消費者製品(石けんなど)であったが、いまやエンジニア総数8000人、毎年1000人規模の新規採用を続けるIT複合企業にまでに成長した。成功の秘密は、新しいビジネス築いたことにある。まず、顧客企業の本国にエンジニアを送り込み(オンサイト)、半年間はそこでサービスを提供させる。顧客の信頼を得るや、少しずつ開発・メインテナンス業務をインドに引き揚げ、顧客企業と一体になって、ソフトウェアを開発・改良・補修するというオフショアのビジネスモデルである。
もうひとつが、「時差と賃金格差の活用」。当初の顧客の多くが、アメリカのシリコンバレーにあり、インドとは完全に昼夜が逆転する。シリコンバレーの夜に発注がきたものを、翌日朝までに仕上げることで、顧客にとっては24時間がフルに使え時間の大幅短縮になった。言うまでもなく情報通信の発達がこれを可能にしたのである。
また国際的に見れば、賃金はまだ安い。ソフトウェア開発技術者の年収は、アメリカで雇う3分の1以下のコスト。プログラマーではインドはアメリカの10分の1以下というように、その格差は、より低位の職種にいくほど大きくなる。
インドのIT大国をめざしての課題。@ハード部門強化が次の優先課題。インドの電力事情は相変わらず悪いので、70%ものソフトウェア企業が自家発電設備を備えている。ハードウェア産業がインドで育たない主要な理由の一つが電力不足とのこと。Aソフトウェア産業そのものの高度化も課題。なかでも期待されるのがIT-enabledサービスと呼ばれる分野。IT技術が必要な企業向けサービスを、企業からアウトソーシングを受けて遠隔処理するというもの。コール・センターやバック・オフィス業務、会計処理、データの処理・加工などもある。
最後に、インドと戦略的連携をすべし、と結んでいる。ソフトに強いインドと、ハードに強い日本がうまい補完関係になれるという。分担執筆のため、やや論調が一貫しないところがある。
◆『インドIT革命の驚異』榊原英資著、文春新書、2001/5
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