■ 犬は友だち!「犬にも趣味がある」 (2002.6.14)

文藝春秋のPR雑誌 「本の話」2002/6月号の<特集>は、「犬は友だち!」である。犬とのつきあいに忘れられない思いをもつ人たちのエッセーが集められている。池内紀、山本容子、小川洋子、島村洋子、中野孝次、西本正明 の諸氏である。なかでもドイツ文学者・池内紀(いけうち・おさむ)さんの文章には引きつけられる。なにげない文章に込められている犬への愛情、たくまざるユーモアに思わず頬がゆるむ。

うちのタローもバカな犬でした。亡くなったのは、1996年。家に来て9年弱でしょうか。娘が小さいときに雨のなかをとぼとぼ歩いていたのを拾ってきたのだ。もとより雑種犬。散歩の気配をどうやって察するのだろう。ちょっとでもその雰囲気があると、たちまちそわそわする。池内家のチャンプに負けず劣らずである。ぐいぐいと手綱を引っ張る手応えも忘れられない。

池内紀さんの文章を抜粋しましょう。タイトルは「犬にも趣味がある」。

犬にはわりとくわしい。14年あまり苦楽をともにした。半分がた秋田犬のオスで、近所の獣医さんが抱いてきた。「大きくはなりません」。予告どおり、小柄なままだった。私は――女性もそうだが――小柄なタイプが好きである。……

庭で新聞を読んでいると、前脚でひっかきにきた。無視されているのが不満だからだ。お返しに頭をゲンコでコツンと一つ。朝、顔を合わせてコツン。外出からもどるとコツン。散歩が終わったときにコツン。そのたびにチャンプはなぜか大アクビをした。

庭のモッコクの木のうしろに、チャンプが何かを隠しているのを私は知っていた。うっかり近づくと目の色かえてすっとんでくる。キバをむいて威嚇することもあった。秘匿物の一つが使い古しの歯ブラシであることも知っていた。わざわざ土の下に歯ブラシを隠すとは、いかなる思惑あってのことだろう?

余分の肉などを貯える以外に犬には「物を集める」という性質もあるのだ。集めるものは犬によって違うそうだが、「大部分は犬の生活に直接なんの関係もないもので、つまり趣味の収集ということになります」。

例として古靴とか板、金物があげてある。わがチャンプは歯ブラシの柄のようなプラスチックに興味があったらしい。

チャンプが逝って2年になる。私はときおり『ニッポンの犬』(新潮文庫)を取り出して、あれこれ思い返す。そこに紹介されている犬たちのどれにも、いくぶんかずつ、チャンプの面影があるからだ。散歩の時間が到来して、茶褐色の目をキラキラ輝かせ、すでに腰をあげかげんになっている姿など、まさにそっくりそのままだ。


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