■『科学を読む愉しみ 現代科学を知るためのガイドブック』 池内了著 (2003.3.2)

紹介している本は合計 170冊。巻末に書名索引がある。7つに大きく分類している。科学の醍醐味、地球と環境、科学は森羅万象にあり、生命の謎、科学の論争・論点、科学者。

著者は宇宙物理学者。本を選び出したポリシーは、まえがきによると、こうである。第一に、誰もが同じように誉め上げるベストセラーは敬遠したとのこと。そして、日頃から知りたいと思っていた謎に挑戦した力作、思いもかけぬ展開が予期されるような話題、そして歴史や文学や民俗など幅広い文化の領域に広がっていくような本を選んだとのことだ。

最初に、科学の「正」と「負」の側面を見据えながら読む、というテーマがある。ここで取り上げているのは、次のような本である。
・『神は老獪にして…』 (アブラハム・パイス、西島和彦監訳、産業図書)
アインシュタインの公私にわたる素顔と科学の考え方がよくわかる。
・『利己的な遺伝子』 (リチャード・ドーキンス、日高敏隆他訳、紀伊國屋書店)
21世紀は確実に生物学の時代になるだろう。遺伝子に関する本は多数あるが、これが一番楽しかった。
・『人間の測りまちがい』 (スティーヴン・グールド、鈴木善次・森脇靖子訳、河出書房新社)
頭脳の大きさや人種で人の能力を測定しようとした科学者たちを取り上げている。

DNAの二重らせん構造の発見は1964年とあるが (P.17)、これは間違い。ワトソンとクリックが、DNAが二重らせん構造であることを『ネイチャー』に発表したのは1953年2月28日とのこと。洋泉社編集部によれば、増刷の折に訂正するそうだ。


◆『科学を読む愉しみ 現代科学を知るためのガイドブック』 池内了著、羊泉社、2003/1

◆池内了(いけうち・さとる) 1944年 兵庫県生まれ。京都大学大学院 理学研究科博士課程修了。名古屋大学大学院教授。宇宙物理学専攻。


■『科学書乱読術』 名和小太郎著 (2003.3.2)

巻末の索引が充実している。人名・書名があるのは当然として、関連の論文名まで挙がっている。ハイパー読みのためのリンクと称して、脚注が豊富なのも一段と楽しい。

著者は、科学に関する2つの「知的伝統」――諧謔とお喋り――に注目したいという。そして、いろいろな科学書、技術書で遊んでみたいと。選ぶ基準のひとつは、「合理的な記述をもつ本」であるという。

例えば、2つの文章を挙げる。
A 「赤ん坊は立つべくして立ったのである。……(そのように)進化とは変わるべくして変わったのである」(今西錦司『主体性の進化論』)
B 「ピアノのc'の鍵盤をあるいは指で叩いたり、あるいは万年筆の軸で押したり、あるいは猫の足に踏ませたりするのを隣の部屋で聞いて、一々区別できるかと問われたら、誰も容易には区別出来るとは考えられまい」(兼常清佐『音楽界の迷信』)

Aは科学者の文章、Bは美学者の文章とのこと。著者は、AよりBのほうを合理的だとし、Bのたぐいの本をよしとする。

著者の見識を示すのは、おもしろいのだが、どうにも信用しかねる、という分野の書物は敬遠したということ。たとえば脳科学、社会生物学。それから複雑系などという分野も。一方、かなり以前に出版された本まで紹介している。絶版もある。絶版探し、古本屋回りや図書館通いは、本好きにとって欠かせない楽しみであるはずだというのだ。前掲の兼常清佐について言えば、1931年初版の岩波文庫『音楽と生活』がある。


◆『科学書乱読術』 名和小太郎著、朝日選書、1998/4

◆名和小太郎 (なわ・こたろう) 1931年 東京生まれ。東京大学物理学科卒業。石油資源開発(株)、旭化成(株)勤務の後、新潟大学法学部教授を経て、関西大学総合情報学部教授。工学博士。


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