■ 『「会計戦略」の発想法』 内部監査によるサポート (2003.9.22)
カルロス・ゴーンの率いる日産自動車は優良企業として返り咲いた。ゴーンの経営再建計画は「日産リバイバルプラン (NRP)」だ。リバイバルプランが始動する前年2000年度の最終利益は6,844億円の大赤字であった。しかし、1年後のリバイバルプラン初年度には、3,311億円もの利益を稼ぎ出した。改善幅はなんと1兆円。だが、よく見ると、この1年間の売上高の改善はわずか1,000億円強でしかない。経費節減だけで1兆円を捻出できたのだろうか。
ここにゴーンの「会計戦略」があると著者は言う。2000年度決算の大赤字は、7,500億円に上る特別損失によるものである。内訳は、年金債務の会計処理の変更、事業構造改革引当金、不動産等の再評価による損失など。事業構造改革引当金には2,327億円を積んでいる。リバイバルプランを断行すると、工場閉鎖や人員削減に伴う退職金などのコストが発生する。ゴーンは、その費用のすべてをリバイバルプランが始動する前の2000年度に3年分を計上したのだ。株価の下落や格付の低下を恐れずに、大胆な会計処理を行った。改革を進めるためのコストを事前に見積もり、それを費用として計上しておく。そうすれば、大胆に改革を進められる。
著者の意図は、「会計」の戦略的な意義を問い直すこと。そして「会計」をサポートするための「内部監査」に大きな重要性を認め、その充実を求めている。これは類書にないユニークな点だ。
会計(アカウンティング)はアカウンタビリティ(説明責任)に通ずると。会計とは財産運用の「受託者」から「委託者」への説明だ。「会計」は経営そのものであり、経営の計器盤でもある。経営の舵取りを誤りなく行うためには、会社の業績を正確かつ迅速に把握できることが大前提になる。内部統制システムを円滑に機能させるためには、内部監査 (モニタリング機能)が必要なのだ。
監査室や検査部などの「内部監査」は、モニタリングとして位置づけられる。内部監査部門から報告を受けた経営陣はしっかりとレスポンスすること。@問題点の発見→A取締役会・経営陣への報告→B取締役会・経営陣における討議→C経営陣からの指示→D指示に基づく改善→E改善状況の確認、という一連自浄作用のプロセスが大事だ。PDCAサイクル――Plan-Do-Check-Action――というプロセスを埋め込むこと。
内部監査は「経営監査」でもある。リスクアプローチに基づいた内部監査は、企業経営における予防やコンプライアンスといった側面のみならず、事業効率を改善し、さらには、株主価値や企業価値の最大化に向け、重要なモニタリング機能を果たすようになっている。かつて内部監査人は、不正摘発者としての役割が求められポリスマンのイメージが強かったが、今日では、業務プロセスにおける業務効率の向上に貢献し、経営全般に対して経営陣を積極的にサポートする能力が要求されるようになってきた。
◆『「会計戦略」の発想法』木村剛著、日本実業出版社、2003/7
◆木村剛 (きむら・たけし) リスク管理とコンプライアンスに精通していることで知られるコンサルタント会社KFiの代表を務める。金融庁・金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム委員など。
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