■ ちょっと失望 『書く技術・伝える技術』 (01/02/05)

作文の書き方とか文章技術と称する本は、もう何十冊と読んだ。またしても、この本を手に取ったのは、ぱらぱらとページをめくったときに、「パラレリズム」とか「メンタルモデル」とか聞き慣れないことばが引っかかったからである。

しかし、結論から言えば、これらのカタカナ語はまったくのコケ威かしである。「パラレリズム」にしても、素直に「同じ種類の内容は、同じ表現にする」と一言でいえば済むことなのである。もっともらしいカタカナを並べなくても、言いたいことは明瞭に読者に伝わる。「メンタルモデル」にしたって、「読者に分かりやすいように素直に書くこと」でいいのである。もっともらしい言葉を振り回す必要はない。

本書は3部で構成されている。基礎編、理論編、実践編である。
基礎編では、まっさきに、「読ませない文章」をいかに書くか、とある。これには戸惑ってしまった。仕事の文章であれば、誰が読むのか分からない文書とは違って、文章を読んでもらう相手は事前にはっきりしているはずである。従って、何とかして文章をきちんと初めから終わりまで読んでもらおうとするのが第一の心得であろう。本書の著者は、反語的な意味を込めているのだろうか、まず読ませるなと説くのである。どうでしょうか、読ませない文章であれば初めから書かない方が良いでしょう、というのが評者の立場です。

理論編ではビジネス・ライティング7つの法則が挙げてある。例えば、法則1は、「まず、何を述べるかを書く」である。これは「文章の冒頭には結論を示す要約文を置くこと」と言い換えられるであろ。法則7は「誰でも同じ理解になるよう表現する」とある。これでは困ってしまいますね。同じ理解になるようには、どういうやり方で書けば良いかを教えてくれるのが法則の有り難みではないのでしょうか?

「パラレリズム」と聞いたときに、もっと別の内容を考えました。例えば、二つの議論A、Bを並行して記述するときに、A、Bをごちゃごちゃにしてまぜこぜに書かないという規則のことかと思いました。それぞれの論点をきちんと分離・明確にして述べることです。
あるいは、箇条書きの際に、それぞれが分離独立するように項目立てすること、ではないかと思いました。単純な例を挙げれば、地方別に箇条書きするとき、(1)関東地方 (2)東京方面と項目立てすれば、内容が重複することになりますね。きちんとした項目立ては、(1)関東地方、(2)関西地方ですね。
こんな考えが「パラレリズム」と思ったのですが、本書の内容は「同じ種類の内容は、同じ表現にする」で済みます。失望しました。どこから引用した言葉でしょうか、他の本ではまったく聞いたことのない言葉です。

認証心理学からとして「メンタルモデル」を導入している。確かに、モデルの考え方には一理ある。しかし、それ以上に言及して欲しいのは、日本人として潜在的に持っているメンタル・モデルというか、文章を理解するための脳の仕掛けである。日本人としての環境、育ち方、学校教育等々、これらが文章の書き方に大きな影響を与えているはずだ。日本人固有のメンタル・モデルがあるはず。
また認証心理学の短期記憶のメカニズムとして、記憶できる数量を9±2としているが、これは原著に「通常では」と断りがあるように、5±2を採用した方が妥当だと思う。この方が自身の体験にもマッチする数字である。

その他、本書でもっと言及して欲しいと思った論点は以下の通りです。
・日本語の特質……日本人の潜在的メンタル・モデルとでも言うのでしょうか
・事実と意見……仕事の文章ではこの区分は必須ではないでしょうか
・段落の定義……段落が理論の基礎となっているので、最初に定義をきちんとして欲しい
。情報とは……これもきちんと定義する必要があるでしょう。すくなくとも考え方を明確に


◆『書く技術・伝える技術』 倉島保美著、あさ出版、1999/12


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