■ 『日本経済 企業からの革命――大組織から小組織へ』 野口悠紀雄著 (2002.12.6)
混迷を続ける日本経済、回復への処方箋はあるのか。野口悠紀雄教授(青山学院大学)の回答は明快である。景気が悪いから企業の調子が悪いのではない。日本企業の活力のなさが、日本経済不調の原因であるという。最重要の課題は企業収益の回復であり、そのためには企業改革が不可欠。ポイントは、コーポレートガバナンス (企業統治) の確立であると。はたして小泉・竹中政策は正鵠を得ているのか?
企業の活力が失われたから経済が活性化しないのである。「赤字拡大の原因は無駄な公共投資などの放漫財政」と考えている人が多いが、真の原因は、税収の驚くべき減少であるという。法人税収は、10年前に比べて、半分程度にまで減っているのだ。原因は、企業の収益力低下。だから、「国債30兆円以内」を堅持し、特殊法人の廃止に取り組んでも、企業収益の回復がない限り、財政再建はありえないのだ。
経済環境の変化に適切に対応していないからだという。第一の変化は、情報通信技術。大型コンピュータ中心から、パソコンとインターネットを中心とする仕組みに変わったこと。第二は、東アジア諸国とりわけ中国の工業化。同品質であれば、低い賃金で生産される安い輸入品に競合できるはずはない。安い輸入品による新しい価格体系に整合的な経済活動だけが、生き残る。アジア諸国ではできない先進的な経済活動を展開することが重要であると。日本企業は、組織が老齢化し経済環境の大きな変化に反応できないのである。経営者の入れ替えが柔軟に行われれば、日本企業は蘇るだろう。
企業がいかにして環境条件の変化に対応できるだろうか。「経営者が駄目なら株を売る。それによって株価が下がり、企業経営は転換せざるをえなくなる」というのが、もっとも強力なコーポレートガバナンスである。日本では、このメカニズムが十分に働かない。業績が悪化した企業の株価は低下するのだが、それが企業の改革に圧力をかけることにはならない。メインバンクが支えるのだ。間接金融が支配的だからである。コーポレートガバナンス確立のためには、金融構造を直接金融中心の仕組みに改革する必要がある。
・「間接金融」とは、企業の長期資金が、株式市場や債券市場から調達されるのではなく、銀行からの融資によって賄われる仕組みを指す。
さらに、日本経済の停滞と行き詰まりの大きな原因の一つは、新しい時代のための人材育成が後れたこと。従来の日本の組織では、協調が重視されるあまり、専門的知識や能力をもつ人間が疎んじられた。経済条件の変化に積極的に対応するには、人的資源の育成が不可欠。専門的実務家育成のための高等教育が弱体だ。社会構造を変える基本的な原動力は教育であると。
◆ 『日本経済 企業からの革命――大組織から小組織へ』 野口悠紀雄、日本経済新聞社、2002/7
◆ 『コーポレート・ガバナンス 日本企業再生への道』 田村達也、中公新書、2002/2
田村達也 (たむら・たつや) 1938年 広島県生まれ。1961年
東京大学法学部卒業。日本銀行営業局長、同理事、A.T.カーニー日本法人会長を経て、現在、グローバル経営研究所代表取締役。オリックスおよびスルガ銀行の社外取締役などを兼務。
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