■ 『4人はなぜ死んだのか インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」』 三好万季 ( 2001.7.9)
いわゆる「毒入りカレー事件」は、1998年7月ちょうど3年前、和歌山市園部で発生した。本書の元となった原稿は、中学3年生の夏休みの理科の宿題として、このカレー事件を契機に書き始められたもの。亡くなった4人のうちの一人は高校1年生で著者とはたった一つ違いということで他人事ですますことができなかったのだ。著者は1983年生まれ、いま18歳。この文庫本に追加された近況によれば、高校を中退し医師を目指して勉強しているとのことだ。
レポートを自ら整理した原稿は、「文藝春秋」1998年11月号に掲載され大きな反響を呼び、文藝春秋読者賞を受賞した。
あとがきには、単行本が1999年7月刊行された後、ぐっと読者層を広げ、かつ若返ったとある。いくつかの医学部、看護学校、社会福祉・公衆衛生関係学科などで教材に使われ、読書感想文の課題図書にも指定された。さらに、れっきとした大学の情報科学等の授業でも教材に使われたとのこと。
本書は、事件にかかわった医療関係者、警察さらにマスコミへの糾弾・警告の書である。危機に陥った4人の尊い生命を救うことができたのにかかわらず救えなかった。あるいは救おうとしなかったという「医療事故」であるとする。
もし保健所が「食中毒」ではなく、毒物中毒を疑っていたら、砒素を特定できていなくても、催吐、下剤、胃洗浄や適応の広い解毒剤などを、緊急に処置することができたはずである。現実には毒物中毒への救急処置が取られなかっただけでなく、目的の定かでない点滴や抗生物質が処方され、催吐や下剤ではなく、逆に鎮吐剤などが処方された。これは、医療による「さらなる加害」とは言えないだろうか。最初から毒物中毒に対する処置がなされていれば、4人の生命が救われた可能性はきわめて高い。マスコミもまた、自ら調査したり検証することなく、発表された情報をそのまま報道するだけであった。
著者は、インターネットという開かれた世界の、無限の可能性を示唆している。自分で疑問に思ったことを、すぐにインターネットで調べ、問題を提起している。急性砒素中毒への処置に必要な情報は、素人でも十分手の届く範囲に、十二分に存在していた。
既に、インターネットを当然のこととする新しい世代が育っているのを実感する。著者にしても、4歳でタッチ・タイピングを覚え、ワープロは、小学校2年生のときOA専門学校で半年でマスターした。「私にとってインターネットを利用することは、本屋さんや図書館の書棚を漁ることと同様、きわめて日常のことでした」。さらに「インターネットが、人類共有の、地球規模の、新しい文明の脳神経系として大爆発を始めた、そんな時代に生まれてきたタイミングに、私はとても感謝しています」。
◆『四人はなぜ死んだのか インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」』 三好万季著、文春文庫、2001/6
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