■ 『日本の優秀企業研究 企業経営の原点−−6つの条件』 (2003.11.11)

いま評判の書だ。この本の目的は、企業の格付を行うことではない、と著者は言う。企業経営に新しい「洞察」をもたらすことであると。優良な成果を上げている企業は、どのような特質を持っているのか。うまくいっていない企業との違いは何か。こういった点を明らかにすれば、閉塞感に包まれた日本企業の新たな発展の道筋もおのずと見出せるのではないかと。

企業の収益性、安全性、成長性の3つの要素に着目し、過去15年間にわたる数字を追ったとのこと。同業種の企業と比較し、事実をひたすら虚心坦懐に見ることによって結論を導き出す「帰納法的な」方法に徹した。利益額の推移のみをみて、売上げの推移は無視したという。

抽出された6つの条件とは、次のようである。(1)分からないことは分けること、(2)自分の頭で考えて考えて考え抜くこと、(3)客観的に眺め不合理な点を見つけられること、(4)危機をもって企業のチャンスに転化すること、(5)身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視すること、(6)世のため、人のためという自発性の企業文化を埋め込んでいること。ちょっと拍子抜けする結論である。奇をてらう文言もない。

戸惑ってしまうのは、この結論からは、具体的なアクション――企業活動として何をすれば良いのか、が見えてこないことだ。例えば、第3の「客観的に眺め不合理な点を見つける」ことでは、キヤノンのコンピュータ事業からの撤退事例があげられている。このキヤノンの判断は正しかったのだろうか?単純に赤字事業から撤退するのではなく、なぜ赤字なのかを究明し、その対応策を実現することこそ正しいアクションではなかったのかの懸念は消えない。

また、6番目の条件は、従来言われてきた「コーポレートガバナンス」の対極にあるようだ。著者独特の主張があり、強い思い入れが感じられる。最終章はノスタルジックで感傷的な文章、「私たちが輝いていた原点へ」とある。日本企業に戦略がない、というのは間違いである。昔はそれがあったという。ここまでの帰納的で実証的な分析・結論と、この終章では温度差があり過ぎますね。


◆ 『日本の優秀企業研究』 新原浩朗著、日本経済新聞社、2003/9


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