■ 英語ばかりがなぜもてる 『日本語の値段』 (2001.1.20)
富士通では、「インターネット時代に英語は不可欠」として社員に対する英語教育を強化し、全員参加で英語検定試験「TOEIC」を実施する方針。将来は英語力も評価制度に取り入れるとも聞いた。先頃の日経新聞(1.16)によれば、日立製作所でも役職ごとに、TOEICで一定の点数をとることを義務づける制度を導入するとのこと。経営幹部候補者になると、990点満点で800点が条件。800点以上とは全受験者の上位1割弱でしかない難関。
「英語ばかりがなぜもてる」という現状である。インターネットのホームページの数を調べてみよう。サーバー台数の推計によると。@英語 84.3% Aドイツ語 4.5% B日本語 3.1% Cフランス語1.8% Dスペイン語 1.2% コンピュータの普及率ともからむが、日本語はがんばっている方だろうか。英語がダントツの独走である。日立や富士通が英語教育にやっきになるのも、むべなるかなと思える。
本書は先のホームページ数調査などのデータが詰まった、研究報告ともいえる硬派の内容である。著者の意図は、ことばの値段を明らかにすることによって、実は言語には格差があるということを、はっきりさせること。そして日本語が世界でどんな市場価値を持っているのかを。さらに、日本語の中でも方言にまで価値判断があるという。最近では方言の価値変化が見られると指摘する。
例えば、世界全体でことばの話し手別の人口の順位。日本語はかつて世界第6位と言われたが、今は9位か10位と見られる。中国語、ヒンディー語/ウルドゥー語、英語、スペイン語……日本語と並ぶ。ただし母語の話し手だけでは、いい指標にならない。世界最大の話し手を持つ中国語の市場価値が、世界的にそれほど高くないことが典型である。外国語としての話し手(学習者)とか、公用語しての採用数、さらに経済力や文化度・情報量などによって言語の市場価値は決定されるとする。
著者は大学教授、綿密な調査データには研究室の学生のバックアップがあったと推定される。時間と労力がかかっている。本書の内容は定点観測の意義を持つであろう。継続しての出版が期待される。
◆『日本語の値段』井上史雄著、大修館書店、2000/10
◆井上史雄 (いのうえ・ふみお) 東京外国語大学外国語学部(人文科学)教授。専門は社会言語学・方言学。昭和17(1942)年山形県鶴岡市生。東京大学大学院言語学博士課程修了。
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