■ 『ルネッサンス 再生への挑戦』 ゴーンは日産の再生をいかになし遂げたか (2003.01.11)
ビジネス雑誌の特集で「仕えたい上司 ナンバーワン」にカルロス・ゴーンが選ばれたとの記事を読んだ覚えがあるのだが。あの鋭い視線に、強いリーダシップだけではなく、共に改革をなし遂げようという信頼感が感じられるのだろう。
ゴーンはフランス国籍を持つブラジル生まれのレバノン系ビジネスマン。パリの国立理工科学校を卒業し――本来はエンジニアなのだ――ミシュランに入社。ハイパーインフレに悩むブラジル・ミシュランを黒字に転換させる。ブラジルでの活躍を認められ、34歳の若さでミシュラン北米のトップに。その後、ルノー副社長を経て日産に迎えられる。
マネジメントの基礎は、問題を特定すること、優先順位を確立すること、あらゆるレベルで双方向コミュニケーションを促進するといったことだとゴーンは言う。特に、マネジャーには問題の核心を見抜く能力が不可欠であると。問題の全体像が見えていなかったり、思い込みにとらわれていたり、伝統や慣習が障害となっていたりするために、解決策を見出せないでいるマネジャーが実に多いのだ。
ブラジルでの苦しい経験がゴーンのマネジメントの手法を作り上げたようである。スピードと正確な分析の重要性を学んだと。そしてこの後、一貫してゴーンのマネジメントの基盤となるのが、CFT (クロス・ファンクショナル・チーム) である。会社が直面した問題をさまざまな視点から検討・分析するという、差し迫った必要からCFTは生まれた。さまざまな分野の人々が、部門や職務の壁を超えて一堂に会し、活発な議論を交わし、それぞれの部門に染みついた「昔ながらのやり方や慣習」を変えるのだ。
CFTこそ、行き詰まった状況や力不足の状況を打開する唯一の方法だという。特定の課題――たとえばコスト削減、品質向上、リードタイム短縮、収益改善など――をさまざまな部門の人々を集めて与える。あとは彼らが大いに力を発揮するのを見守る。もちろん、トップには染みついた古い考えと断固闘う決意がなくてはならない。改善とコスト削減は、部門の壁を超えて取り組んだことで可能になった。エンジニアリング部門の社員は購買やその他の部門の社員たちと協力して、生産コストを削減する方法を検討し、同時にデザイン、品質、業績の改善を目指した。
1999年6月、ルノーを離れ日産のCOOのポストに就く。ここでもCFTの設立が第一のテーマであった。そもそも顧客の要求はクロス・ファンクショナルなものだという。コストでも品質でも納期にせよ、ひとつの機能やひとつの部門だけで応えられるものではない。9つのCFTを作る。取り組んだテーマは、@事業の発展、A購買、B製造・物流、C研究開発、Dマーケティング・販売、E一般管理費、F財務コスト、G車種削減、H組織と意志決定プロセス――である。さらに、リバイバルプラン発表後に設備投資の項目が加わった。
各CFTは10人余りのメンバーで構成される。CFTは決断を下す組織ではなく、提案を行う組織。実際に決断を下すのは経営委員会だった。CFTは3カ月間ひっきりなしに一進一退を繰り返し、ミーティングを重ね、計画を作成した。CFTに直接かかわった人数は200人だったが、ほかにも何百人という数の社員が計画作りに貢献し、しめて2000件のアイディアがCFTで検討されたという。そして日産リバイバルプラン(NRP) としてまとめられた。
◆ 『ルネッサンス 再生への挑戦』 カルロス・ゴーン著、中川治子訳、ダイヤモンド社、2001/10
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