長い文はやはり分かり難い。日本語では一番重要な述語が文の最後に来るので、長い文では先頭の内容と述語のつながりが不明確になりやすいのである。視覚的にはワープロ画面で2−3行(60文字以上)を越すと長いな感じる。一息にすっと読める長さが、分かりやすいもの。
短い文章を連ねると、ポキポキした感じになり、文章の流れがせき止められたようになる。これは書く人の工夫を要するところである。
50字がメド (加藤秀俊『自己表現』)
ひとつのセンテンスは、できることなら40字、多くても50字をメドにすること。
そして、それより短いものは無条件で大歓迎。
およそのメドとして、わたしは、200字でいちど改行、という基準を提案する。
技術文書では正確な情報を伝えることが使命である。正確なデータを、そのデータにふさわしい方式で表現することが必要である。あいまいな表現にならないことが大切。
法律文では、正確を期す(言質を取られないように?)ことから、一つの文にすべての内容を詰め込んでいる。正確な表現ではあるが、技術文書の参考になるだろうか?
あいまいさを避ける
技術文書では次のような用語は使わないこと。あいまいな表現となり明確性に欠ける。
ほぼ、約、ほど、ぐらい、たぶん、ような、らしい
「など」を正確に
新聞に多い「〜など」は、自分の書いた文章に自信がないからだろうか。あるいは、責任逃れのためでもあろうか。「〜など」にその他大勢を一緒くたに詰め込んでいるのである。
WindowsはIBMなどのパソコンで動作します。この文章の解釈は何通り可能でしょうか?
「など」が含む内容は読み手には分からないことが多い。「など」の内容が特定できるときは、@のように全部の例を書き並べる。全部を挙げることができない場合は、AまたはBのように内容を推測できるような説明を付ける。
(『文章・表現200の鉄則』)
@全部の例を書き並べる。
図面、仕様書、契約書、見積書、電話帳、組織図は (秘)書類とする。
A「など」の内容が推測できるようにする。
野球場、遊園地などのレジャー施設への拡大。
B総数を示して、「など」の内容を限定する。
ピンク、ブルー、モスグリーンなど全部で6色。
一つの文章には一つの意味だけを持たせること。一意的解釈ができるようにすることである。
論点が明確になること、読み手にすっきりとメッセージが伝わるなどの効果がある。
ワープロの影響によってであろうか、一つの文章に盛りだくさんの内容を詰め込もうとする傾向が強い。思い切って文章を刈り込むか、あるいは複数の文に分けることが必要である。
ひとつのセンテンスでひとつの意味
松本清張さんが出てこられて、あの人の文章に驚いた記憶があります。センテンスが短い。これは読みやすいというより、むしろ、ひとつのセンテンスがひとつの意味しか背負っていない文章ですね。
(司馬遼太郎『日本人を考える』)
明快とは、筋道が明らかですっきりしていること。表現が冗長だったり、もって回った表現だったり、主語と述語の対応がねじれていて主題が行方不明になってしまっている場合がある。
明快に表現するためには、書いた文章を何回も見直して余計な表現がないか、言いたいことがすっきりと一本線にまとまっているかをチェックすることである。良いお手本を読んでコツをつかむことも必要だ。
◆明快な文章の例
メルセデスが3月に発表した電子的安定機構「ESP(エレクトリック・スタビリティー・プログラム」は、車が横に滑った時、ドライバーが適切な対応がとれなくても、車をドライバーが望んだコースに回復させる自動制御システムである。
このシステムは、大容量メモリーを持つ2つのコンピューターと、ドライバーの操作と車の動きを感知する複数のセンサーから構成される。
まず、ハンドルをきった角度と車輪の回転数から、横滑りを起こす以前にドライバーが望んでいた進路と速度を確認する。次に、左右への揺れ(ヨー)の度合いを振動ジャイロを使ったヨーセンサーが検出し、揺れの大きさをデータとしてコンピューターに伝える。コンピュータは、この二つのデータを比較し、車を安定させるのに必要な個々の車輪のブレーキ圧を瞬時に計算。横滑りを最も効率的に相殺するタイヤに、選択的にブレーキをかける。
(朝日新聞1995.8.5匠の博物館)
この文章は明快でよく分かる。表現上での工夫は次の点である。
・第1段落で大まかな様子をまず説明し、次に第2段落から詳細に入る
・詳細説明は、時間的な順序に従っている
・動作が目に浮かぶように具体的に表現している
否定文は誤解される危険性が高い。誤解の原因は、主題に対する情報が不足した場合や、文章表現に注意が不足した場合である。
「〜のように+ではない」の形をした文章は、受け取り方により複数の解釈が可能である。
例 A社の製品は、B社のように良くはない
二重否定
肯定文に書き直すこと。技術文書では微妙なニュアンスを伝える必要性は小さい。
例 環境設定によっては、正しいパラメータを与えないと、システムが停止しないことが
ある。
客観的かつ具体的に
次のどちらの表現が技術文書に適しているだろうか。
・マイクロソフトは世界一のソフト会社です。
・マイクロソフトの従業員は1万3千人で、年間の売上高は3千億円です。
技術文書では、具体的な表現が必須である。「具体的」とは実際的で、細かい所まで取り上げる様子である。
マニュアルであれば、「操作は非常に簡単です」というような表現でなく、その製品の操作を目の当たりにするように書かなければいけない。計画書であれば、実際に何人の開発要員が必要で費用はいくらかかるのかが主題であって、「開発は重要ですが非常に困難です」――のような文章は役に立たない。
顔の見える文章を書かなければいけない。読者はまず3W(いつ、誰が、何を)を知りたい。「何日、どの球場で、誰が、ホームランを打ったか」を新聞で読みたいのだ。
具体的表現のチェック
◆形容詞を削り数値で置き換える
多い、若干、遅い、大きい……これらを数値で置き換えてみる。
何月何日何時、誰が……の表現にしてみる。
◆あいまいな表現を避ける
かなり、少し、多少、なるべく、…このような表現は使わない。
代名詞に注意 (代名詞が何を指すのか、不明確なことが多い)
カッコは文の流れを切る
カッコによるはさみこみ( )の中が長くなると読み手の流れが中断され理解を妨げる。また前後の文章と関係のない注釈をはさみこまないようにすること。
冗長な表現
重複表現〜被害を被る→損害を受ける。従来から→従来、以前から。
およそ千数百円→千数百円。いまだ未完成→未完成。
清水幾太郎の主張―「が」を警戒しよう
(『論文の書き方』) ちょっと長いのであるが、原文を引用する
「が」は一般にどういう意味に用いられているか。
@「しかし」、「けれども」の意味がある。前の句と多少とも反対の句が後に続く場合である。反対の関係が非常に強い時は、「にも拘わらず」の意味に使われる。
A前の句から導き出されるような句が後に続く場合に、「それゆえ」や「それから」の意味で用いられる。
B反対でもなく、因果関係でもなく、「そして」という程度の、ただ二つの句を繋ぐだけの、無色透明の使い方がある。
2つの句の関係がプラスであろうと、マイナスであろうと、ゼロであろうと、「が」は平然と通用する。「彼は大いに勉強したが、落第した。」とも書けるし、「彼は大いに勉強したが、合格した。」とも書けるのである。「が」という接続助詞は便利である。「が」をやめて、次のように表現してみたら、どうであろう。「彼は大いに勉強したのに、落第した。」「彼は大いに勉強したので、合格した。」こう書き換えると、「が」で繋いでいた時とは違って、2つの句の関係がクッキリと浮かび上がって来る。
「が」の代わりに、「のに」や「ので」を使うとなると、2つの事実をただ一緒に掴んではいられない。2つの事実の間の関係を十分に研究し認識していなければならない。研究や認識があって初めて、私たちは「が」から「のに」や「ので」へ進み出ることが出来る。
「ので」や「それゆえに」、「のに」や「それにも拘わらず」というゴツゴツした言葉を用いた文章の方が、後で記憶に残りもするし、読んでいる時も、一句一句が逃げない。滑らない。「が」で繋いだ文章はツルツルと読者の心に入って来て、同時に、ツルツルと出ていってしまう。
・彼は大いに勉強したが、落第した。
・彼は大いに勉強したが、合格した。
↓
・彼は大いに勉強したのに、落第した。
・彼は大いに勉強したので、合格した。
「が」を使わないようにして書き換えると、2つの句の関係が明確になる。
「カネオクレタノム」は、読点をどこに打つかによってまったく文意が違ってしまう例である。分かりやすい文章を書くために、読点のはたす役割が大きいのである。
二つの原則
本多勝一は『日本語の作文技術』のなかで、読点はひとつの思想の単位を表すとして、読点を打つための二つの原則をあげている。目的は読む側にとってわかりやすい文章を書くこと。
(1) 長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界に読点を打つ
(2) 原則的語順が逆順の場合に読点を打つ
わかりにくい文章では、修飾する言葉とされる言葉のつながりが明白でない場合が多い。両者が離れすぎていることに主原因がある。
×白い横線の引かれた厚手の手紙
○横線の引かれた白い厚手の手紙
(原則)
@句を先に、詞をあとに。(形容句が先で、形容詞があと)
A長い修飾語ほど先に、短いほどあとに。
B大状況・重要内容ほど先に。
C親和度(なじみ)の強弱による配置転換