■ 『仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在』 (2003.2.7)

「フリーターが増えるのは就業意識が薄いからと強調するけど、それ以前に社会構造的な問題がある」と、著者は週刊プレイボーイの取材に答えている。さらに「中高年の雇用を維持する代償として若年の就業機会が減っているのは間違いない」と。

本書はデータ満載だ。全8章それぞれの末尾には【データは語る】があり説得力を増している。日本全体の失業率は、2001年7月、史上はじめて5パーセントの水準を記録した。一方で、15歳から24歳男性の失業率は、1999年以降、毎月のように10パーセント以上を記録し続けている。2001年9月、失業率は過去最悪の5.3パーセントに達した。背景にあるのは若年失業率の急上昇だ。

日本では中高年の雇用状況にくらべて若年の問題がそれほど深刻に考えられていない。リストラと言っても、とくに大学卒の中高年はほとんど失業していない。大卒の多くが勤める大企業では、ほとんど解雇はできないから。若者の新規採用をやめることで社員の増え過ぎを調整しているのだ。若者には中高年にとって体力的にきびしい仕事がふり分けられる。やりがいのある仕事は中高年が占有していて、若者には回ってこない。

「働く」ことに、2つの不安がうずまいている。ハッキリとした不安、そして曖昧な不安だという。ハッキリした不安とは、不良債権処理による大量失業、労働力人口の減少、国際競争の激化、IT革命のような技術進歩の脅威などだ。一方、職場に広がる曖昧な不安の根底にあるのは、仕事格差の拡大である。仕事内容の違いが明確にされないまま、負担の大きい人とそうでない人の格差が拡大している。

著者のテーマは、若者の曖昧な不安を少しでも取り除き、やみくもに頑張らず、仕事に対してクールに、冷静にファイトする、そのための情報を提供することだという。

若者へのメッセージを挙げてみよう。
まずは仕事のなかで「頑張る」という言葉を簡単に使わないようにしてみること。シドニーオリンピックで、高橋尚子選手への小出義雄監督のアドバイスは、「頑張れ、高橋!」ではない。「ロルーペ来ない!ロルーペ来ない!」である。レース中盤の緊迫した状況で、ライバルのロルーペの情報以上に具体的で簡潔な励ましの言葉はないだろう。

仕事について、とにかく「頑張る」というのはやめてみる。相手を心から励まそうとするときの「頑張れ」もやめてみる。そうすれば、もっと相手を真剣に見つめることが必要になるはずだ。冷静にファイトしたり、励ましたりする自分なりの表現をみつけることが大切。仕事をするときにも、「頑張って○○しましょう」ではなくて、「○○を実現するために自分は自分のために△△をする」と考えるようにしてみよう。

「自分で自分のボスになる」という気持ちをもつこと。フリーターに限らず多くの若者や女性が持ち、それで結果的に独立開業が増えていく。それが、現在の閉塞状況を打破して活路を見出すことになると。

統計データを分析すると、独立開業して成功しようとするならば、学卒から20年程度、関連した仕事を経験することを通じてノウハウや技能を蓄積し、40歳以後で開業に踏み切るのが望ましい。中小企業で就業するほうが、大企業よりも経営のノウハウや知識を得やすいと。

そして、信頼できる友だちをもつこと――当然ですね!。孤独な状況のなかで、正しい判断をするために必要なのは、信頼できる「相棒」を持つこと。自分の判断の間違いを間違いとはっきり指摘してくれるパートナーがボスには欠かせない。信頼できる友だちの輪を広くもっていれば、チャンスは訪れると。

◆『仕事のなかの曖昧な不安――揺れる若年の現在』 玄田有史、中央公論新社、2001/12

◆玄田有史(げんだ・ゆうじ)1964年生まれ。東京大学経済学部卒業。1992年、学習院大学専任講師。95年に助教授、2000年より教授。専攻は労働経済学。2002年4月より東京大学社会科学研究所助教授。


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