■ 『ソニー ドリーム・キッズの伝説』 (2000.12.17)
ソニーの出井伸之会長は、5年で世界最先端のIT国家にすることを目標に掲げた「IT基本戦略」を議長としてまとめたばかり。今やソニーだけでなく日本の舵取り役でもある。
大賀典雄が自分の後継者としてソニーの社長に出井伸之を指名したのは1995年。基調演説のキャッチフレーズは"デジタル・ドリーム・キッズ"。「井深さんはトランジスタ・キッズだった」「盛田さんはウォークマン・キッズだった」「大賀さんはCDキッズだった」。いまわれわれは「デジタル・ドリーム・キッズにならなければならない」。
著者は言う。ソニー・ブランドの価値は、家庭消費者向けエレクトロニクス製品における、50年の技術革新が生み出したものだ。個人的なつながりが、技術的革新の尽きせぬ源泉だった。ソニー技術者たちのすべての人たちが井深大の夢の実現に賭けたことが、技術革新を駆り立ててきた。そして、「出井伸之は50年の会社の歴史に一つの断絶を創り出した」と。本書の原題が、"SONY:THE
PRIVATE LIFE"とあるのが納得できる。
1989年、ソニーは60億ドル近くを要してコロンビア映画を買収した。しかし、1994年には、事業を建て直そうといく度となく試みて失敗したあげく、34億ドルの損失処理を発表した。授業料は高くついた。このくだりの著述は冷酷である。ソニーの振る舞いは無惨としか言いようがない。ハリウッド名うての詐欺師の言うがままに食い物にされている。ハリウッドの撮影所を持ちたいという盛田昭夫の長年の夢が、底にあった。
全体は、豊富で綿密な取材に裏付けられている。世に知られたウォークマン開発のエピソードは別格にしても。例えばCD開発のくだり。大賀典雄の強烈なリーダシップ、中島平太郎の研究リーダーとしての役割、そして技術開発部隊を率いた土井利忠の奮闘。3年間の仕事を8カ月間で成し遂げた。フィリップスとの共同開発で技術的課題のひとつに、エラー訂正方式があり、結果として、ソニー方式が採用されたこと等。
◆『ソニー ドリーム・キッズの伝説』ジョン・ネイスン著、山崎淳訳、文藝春秋、2000/6
◆ジョン・ネイスン(John Nathan) ハーバード大学卒業。文学博士。現在、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校教授。著書に『三島由紀夫
ある評伝』、他に大江健三郎を含む日本の現代作家の小説の翻訳多数あり、映画作家としても主としてドキュメンタリーを多数製作・監督している。1981-82年度エミー賞受賞。
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