■ 『商売の原点』 仮説と検証の大切さ (2003.12.31)



セブン-イレブンにマニュアルは無いようだ。会長の鈴木敏文は、教育マニュアルは必要ない、むしろ有害だという。マネジメントは一律ではない。各店によって内容が違うし、違っているのがあたりまえなのだ。したがって、店の従業員の教育というのは、その店のオーナーの責任においてやるべきことだという。教育はテクニックではない。自分が率先して垂範していかなければ、本当の教育にはならない。
セブン-イレブンでは、創業以来30年にわたって毎週、東京の本部で全体会議を行っている。既に1300回以上を重ねている。本書は、この全体会議での鈴木の発言の速記録をまとめたもの。したがって、語り口は平易であり、じっくりと「商売の基本」を繰り返す。自ずから、オーナー教育のマニュアルの役割を果たしているようだ。結局、鈴木敏文は「経営は変化への対応がすべて」だという。変化に対する対応力が必須なのだと。

小売業における数字というのは、在庫にかぎらず、すべて結果なのだ。小売業にたずさわる者は、結果を生み出すプロセスというものを大事にしなければならないと。また、量によって質を変えることはできないし、量によって質が悪くなることはあっても、よくなることはけっしてない。逆に、質を高めることによって量を増やすことは可能だ。また、売り上げが下がるのは、競合のせいではなく、お客様から見て、その店の価値を比較できる物差しができた結果にすぎない。売り上げが下がるのは、店のイメージや商品の品ぞろえも含め、あらゆる面で自分たちのほうが相対的に劣っているからなのだと。

いまの消費は、完全に心理学の分野に入っているという。そして繰り返されるのは、「仮説・検証」の大切さ。仮説・検証とは、お客様がいまなにを必要としているか仮説を立てて、ためしにやってみること。さまざまな角度から情報を入手し、人間の心理を考えた細かなものの見方から仮説を立て、正確なデータによって検証する。これを継続的にやっていかないと、次の攻めの商売に結びつかない。漠然とデータを見ているだけでは、なんの成果も望めない。仮説・検証によってデータを正しく活用し、さらに踏み込んで、これまでのやり方とは違うことに取り組んでいけば、必ず数字は変わるのだ。


◆『商売の原点』緒方知行編、講談社、2003/10 (2003.12.31)


■ 『鈴木敏文の「統計心理学」』 仮説と検証のサイクル (2003.10.24)



もう出版して1年経つようだ。しかし「仮説−検証のサイクルを繰り返せ」という鈴木敏文のメッセージは色あせていない。

ゼブン-イレブン1店舗の1日当たり平均売上は66万円ほど(2002年2月期)。ほかのコンビニを19万円も引き離しているそうだ。創業以来、30年にわたって経営を率いてきたのが、今も会長としてトップに立つ鈴木敏文である。本書の冒頭に、鈴木敏文 金言集が掲げられている。一見して逆説的な文言が並んでいる。例えば次のようである。

・売れないのは不景気のせいではない
・「昨日のお客」が求めたものを「明日のお客」に出してはならない
「先行情報」をもとに「仮説」を立てPOSで「検証」する

ゼブン-イレブンは業界で真っ先に先進的なPOS (販売時点情報管理)を導入したことで知られている。「情報とPOSの活用」に経営のカギがあるようだ。情報には「経験情報」と「先行情報」があると鈴木敏文はいう。先行情報とは、「明日のお客」の心理と動きを察知するための情報。翌日の天気を調べておくことなどは基本中の基本。地域のイベントなどのスケジュールも典型的な先行情報だと。

先行情報をもとに仮説を立て、発注を実行し、その結果、売り上げはどうだったかをPOSで検証する。検証した結果を次の仮説に活かす。この繰り返しの中で発注の精度を上げ、成功の確率を高めていく。これが要諦だという。

重要なのは人間による「仮説・検証」 。明日の売れ筋は何なのか、新たな売れ筋商品はどれなのか、店舗ごとに現場で仮説を立て、それをもとに仕入れをする。POSシステムは基本的に、仮説が正しかったかどうかを検証するためのもの。POSが出した売り上げランキングの結果をもとに発注するのではない。

ゼブン-イレブンの躍進ぶりを納得できる、非常に合理的なアプローチである。この「仮説−検証」の業務サイクルは、企業活動の全てに応用できると実感する。


◆『鈴木敏文の「統計心理学」』勝見明著、プレジデント社、2002/11


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