■ 『トヨタ式最強の経営 なぜトヨタは変わり続けるのか』 (2001.9.9)

本書で最も説得力があったのは、『ハーバード・ビジネスレビュー』からの引用。

トヨタ生産方式の本質は、生産の現場で用いられているツールや手法ではなく、過去50年にわたる努力によって自然と育まれてきた賜物、――"遺伝子"、である。

もうひとつも、『日経ビジネス』からの引用。

あるトヨタ生産方式の指導者が、「トヨタ生産方式の強みは何か。初級者は、在庫が少ないことだと答える。中級者になると、問題を顕在化させ、生産性向上、品質向上を強制するメカニズムが含まれていることだと言う。しかし上級者は何と言うか。問題を顕在化して解決する作業を繰り返すうちに、問題がない状況が不安になって、みんなで一生懸命問題を探し始めることだ」と語ったと言う。

結局、本書の著者自身のことばとしては印象に残るものは少なかったのである。トヨタ方式を無条件に讃える追従本の1冊であろうか。ハーバード・ビジネスレビューの言った、あまりにも的確な表現「トヨタのDNA」という評価の枠から日本の経営書は出ることができないようだ。カンバン方式の提唱者である故・大野耐一氏の著書、『トヨタ生産方式』(1978年、ダイヤモンド社)を、しっかり読み直したいと思ったのである。



以下は本書からの引用。
●トヨタ生産方式が世界中でどのように導入されたかについて、ハーバード・ビジネス・スクールが4年間にわたって行った調査研究の結果が、1999年秋、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表された。題名は「トヨタ生産方式の"遺伝子"を探る」(H・ケント・ボウエン/スティーブン・スピア執筆、坂本義美訳『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』2000年3月号)である。

「トヨタは驚くほどオープンにそのノウハウを披露してきた。しかし不思議なことに、上手に再現できたメーカーは皆無である。数千という企業から数十万人ものマネジャーがトヨタの工場を訪問したが、トヨタに匹敵するような成果を上げることはできなかった」

「トヨタ生産方式の分析は、なぜこうも難しいのだろうか。それは訪問者たちが工場で見たトヨタ生産方式の本質を、そこで用いられているツールや手法と取り違えてしまうからだ」 「トヨタ生産方式……は過去50年にわたる努力によって自然と育まれてきた賜物と言える。それゆえ一度として文書化されたことはなく、トヨタの従業員ですら理路整然と説明できる人はあまりいない。トヨタの従業員以外の人に、トヨタ生産方式がきわめて理解しにくいのはこのためである」と指摘している。

「トヨタを理解しようとするならば、トヨタ生産方式の見えざる手によって、『科学者集団』と呼ぶべきものが自然に形成されることを知っておく必要がある」。

●『日経ビジネス』(2000年4月10日号)は「トヨタはどこまで強いか――日本的経営、最後の砦」という特集を組み、知られざるトヨタ流経営哲学に迫っている。このなかで、あるトヨタ生産方式の指導者が言っている。

「トヨタ生産方式の強みは何か。初級者は、在庫が少ないことだと答える。中級者になると、問題を顕在化させ、生産性向上、品質向上を強制するメカニズムが含まれていることだと言う。しかし上級者は何と言うか。問題を顕在化して解決する作業を繰り返すうちに、問題がない状況が不安になって、みんなで一生懸命問題を探し始めることだ」と語ったと言う。

「何万もの社員が、言わば問題解決中毒になっているような状態」(藤木隆宏・東京大学経済学部教授)


◆『トヨタ式最強の経営』柴田昌治、金田秀治、日本経済新聞社、2001/6

◆柴田昌治:(しばた・まさはる) 東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。ビジネス教育の会社を設立後、企業風土・体質の改革に独自の手法を考案し、実践している。著書に『なぜ会社は変われないのか』(日本経済新聞社)
◆金田秀治:(かねだ・ひではる)富山大学卒業後、トヨタグループの関東自動車工業に入社。主に生産管理畑を歩み、長年にわたって現場改革から生産管理システム構築に至るまでの「モノづくり改革」に幅広く取り組む。


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