■ ヤスケンの訃報 (2003.1.21)

朝日新聞の夕刊 (2003.1.21) にヤスケンの訃報が載った。安原顯 (やすはら・けん=評論家・編集プロデューサー、本名=やすはら・あきら) 20日、肺がんで死去、63歳とのこと。 経歴をそのまま引き写すと……中央公論社など出版社6社で文芸を中心に編集者をつとめた。女性誌「マリ・クレール」の副編集長時代に担当した吉本ばなな「TUGUMI」は、200万部を超すベストセラーになった。



■ 『「乱読」の極意』 頑張れヤスケン (2002.11.14)



bk1オンラインの「ヤスケンの編集長日記」は壮絶である。10月29日の日記でスーパーエディター「ヤスケン」こと安原顯は、自ら肺ガンであること、余命が1カ月と医者から告げられたことをあっさりと吐露している。2年半前より肺ガンと診断され、手術を強く薦められたが拒否してきた。命ある限り、自宅で仕事をしたいので、とりあえず部屋に酸素ボンベを設置してもらったそうだ。日記も死ぬまで続けると。両肩に激痛があるものの、かろうじて自由の利く左手で日記を書く。気力の「乱読」生活は続いている。

オーディオ好きとは聞いていたが、行動が過激である。貯金をはたいて、英国製のCDプレーヤー――新車が1台買えるほどの価格――をぽんと買ってしまう。すってんてんになることで「ハングリー度」を上げる。「ハングリー」こそ、怒りとパワーの源だと。

本書『「乱読」の極意』は2年前の出版で、99年8月〜2000年2月までの約半年の間に書いた原稿に手を入れたもの。ほぼ115本の書評がある。毎月20冊!ヤスケンのエネルギーは十分にたぎっている。気に入った作品はたっぷりと引用して褒めそやす。一方気に入らないのは、バカ、クソと徹底的に罵倒する。どちらにしても今すぐ本屋に行ってその本を読みたくなるような、とてつもない扇動力がある。

久世光彦は小説の超達人だという。『死のある風景』はベタ褒めである。掌編が目茶苦茶巧いと。母と父、幼少期の想い出、映画、文学、日本語、歌謡曲、友人知人から聞いた話等等、素材はみな身辺的なものだが、久世光彦の筆にかかると、古典的名画や音楽を見聴きした時に味わうような豊かな気持ちにもなるという。

音楽雑誌の『日本版グラモフォン』は、予想を遙かに下まわる驚くべきクソ雑誌だと、散々である。新潮社から1999年11月に創刊されたが、編集者の「おたく度」が極めて低い、「音楽好き」が作っているとは思えないという。誰に、何を、何故、いかにメッセージするかは雑誌の基本だが、本誌にはそれが皆無。編集者の「おたく度」が雑誌の質を決定する。『レコ芸』の筆者の方が、100倍は優れていると。今日、既に『グラモフォン』は休刊状態である。



◆『「乱読」の極意』 安原顯著、双葉社、2000/5

◆安原顯 (やすはら・けん) 1939年、東京生まれ。早大仏文科中退。『海』『マリ・クレール』『リテレール』などの副編集長、編集長を経て、97年4月からフリーに。辛口評論に定評がある。02年よりbk1のセレクトショップ「ブックサイト ヤスケン」編集長に。文芸ジャンルのみならず「面白い本、おすすめの本」を取り上げている。

主な著書:インタヴュー集『なぜ「作家」なのか』(講談社)、『まだ死ねずにいる文学のために』(筑摩書房)、『本など読むな バカになる』(図書新聞)、『本を読むバカ、読まぬバカ』、『決定版「編集者」の仕事』(マガジンハウス)、『安原顯の乱聴日記』(音楽之友社)、『上野桜木ジャズ日記』(音楽之友社)ほか多数。


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