■ 『文章読本さん江』 デジタル時代の文章術は編集能力なのか? (2008.1.16)




この文庫本の原著(単行本)が刊行されたのは2002年。6年前である。いま読み直してみると、著者・斎藤美奈子のパースペクティブな視点にあらためて感心する。谷崎潤一郎に始まった文章読本の系譜と、教科書に代表される国語教育の流れを俯瞰して教えてくれる。
(前回の読書ノートは → こちら)

文章には「情報伝達」と「自己表現」の2つの目的があるという。「伝達の文章」とはたとえば会社に提出するレポートとか企画書だ。この「伝達の文章」――社会生活上で必須――を書く訓練を学校で受けた記憶がないだろう。もっぱら「自己表現」の作文練習ではなかっったか。文章読本は、この学校教育の不備を補完する役割も担って来たのだ。

世の中はインターネットで代表されるデジタル時代に突入している。著者はすでに6年前にも、メールの普及で「対面型の文章」が普及してきたと注目している。「掲示板」の文章は、書き言葉ではあっても、限りなく話し言葉に近いのだ。双方向型のメディア社会で求められるのは、コミュニケーション型の文章であるはずだと。

「読み書き」をめぐる状況は劇的に変わったという。デジタル文章術について、この文庫本では新しく章を起こしているが、パソコンとかインターネットの普及により、印刷という段階をふまないテキストが大量に流通しだしたことに注目すべきだ。かつては印刷物の形で配布されたビジネス文書(「伝達の文章」)などがメールで送付されるようになったことも。

電子メディア(デジタル)時代の文章術に必要なのは「編集能力」だ。「読みやすくする工夫」「見た目の工夫」が何よりも重要だという。旧来の心得――「わかりやすく書け」「短く書け」など――が強調されるのは当然として、画面をスクロールしながら読むのだから、文書の見た目まで含めたプレゼンテーション術としての心得が要求されるわけだ。「魅力的な見出しをつけよ」とか「長いテキストは小見出しをつけて分割せよ」等々だ。

学校教育でも新たな課題が増えている。そこで求められているのも、文章力というより、やっぱり「編集能力」ではないかと。小学校中学年くらいから「調べて書く」「取材して書く」「案内状を作る」「説明書を作る」「パンフレットを作る」といった課題が出され、プレゼンテーションのワザが要求される。

◆ 『文章読本さん江』 斎藤美奈子、ちくま文庫、2007/12刊

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