■ 『できそこないの男たち』  男性の寿命は女性より短い  (2024-9-18)








著者の福岡伸一先生にひかれて古書店で手に入れたもの。本書のタイトルからは、内容の推察は全くできない。まさか、生物のメスとオスについての真面目な話とは。



生物の性決定のメカニズムは、染色体上のX/Y染色体の並び具合に左右される、という知識はかろうじて持っているのだが。最新の研究成果によればSRY遺伝子によって決定されるとのこと。このSRY遺伝子の論文は、1990-6-11 「ネイチャー」の編集部に届いた、わずか5ページだった。

サマリー(要約)はこうだ
ヒト性決定領域に見出された遺伝子は、典型的なDNA結合配列に類似した特徴を有するタンパク質をコードしている。男性を決定するために必要なヒトY染色体上35キロベース領域を探索した結果、新しい遺伝子を発見した。この遺伝子はヒト以外の哺乳動物にも存在し、Y染色体に位置している。この遺伝子は精巣で働くタンパク質をコードしている。このタンパク質にはDNAと結合できる配列がある。この遺伝子にSRYと命名し長らく謎だった性決定遺伝子の候補として提案する。

ある遺伝子のスイッチがオンになっている、というのはその遺伝子がコードしている遺伝情報をもとにタンパク質が実際に作られていることだ。SRY遺伝子さえあればXX型染色体をもつ受精卵をオス化できる。メスをオス化するためにはSRY遺伝子だけがあれば必要十分条件を満たすのだ。

生命はいかに誕生するか。受精卵のプログラムはしばらくの間、生命の基本仕様にしたがって展開する。すべての胎児は染色体の型に関係なく、受精後約7週目までは同じ道を行くのだ。それは女メスである。オスはメスを作りかえて出来上がったものである。だから、ところどころに急場しのぎの不細工な仕上がり具合になっているところがある。

SRYタンパク質によってスイッチがオンになる遺伝子は複数あると考えられている。ミュラー管は生命の基本仕様でプログラムが進行すれば後に卵管、子宮、膣といった女性生殖器のととなる組織だ。抑制因子を受け取ったミュラー管の細胞群は徐々に小さくなりやがて消失する。こうして卵管や子宮などを失った「メス」として、「オス」というものが出発するのである。

地球が誕生したのは46億年前、そこから最初の生命が発生するまでにおよそ10億年が経過した。そして生命が現れてからさらに10億年。この間、生物の性は単一ですべてがメスだった。メスたちはひとりで子どもを作ることができた。こうして地球上の生命はそれぞれその命脈を保っていた。

母が自分と同じ遺伝子を持った娘を産む仕組み――単為生殖は効率が良い。ひとつだけ問題点があった。新しいタイプの子ども、つまり自分の美しさと他のメスの美しさをあわせもつような、いっそう美しく聡明なメスを作れないということだ。環境の大きな変化が予想されるようなとき、新しい形質を生み出すことができない仕組みは全滅の危機にさらされることになる。

生命が誕生して10億年。大気には酸素が徐々に増え、反応性にとむ酸素は様々な元素を酸化するようになり、地球環境に大きな転機が訪れた。気候と気温の変化もよりダイナミックなものとなる。多様性と変化が求められた。メスたちはこのとき初めてオスを必要とすることになった。

男性の寿命は女性より短い。男性ホルモン(テストステロン)が免疫系を傷つけている可能性があるとのことだが


◆『できそこないの男たち』 福岡伸一、光文社新書、2008/10

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