■ 『販売の科学』 サイバネティクスの方法論がある (2009.1.31)
いま市場調査と言えばインターネットが活躍する時代である。本書の原著が、実業之日本社から刊行されたのは1974年9月である。確かに古い。パソコンすらこれからという時代であった。しかし、科学的アプローチの基本を教えてくれる。
ある製品が、性能的にもデザイン的にも、また価格も競合製品とくらべて遜色ないのに、売れ行きに大きな差がついていることがある。製品企画を含めた販売力によって、市場での格差がきまるのである。本書は、販売技術を獲得するための具体的方法を、情報理論や統計理論を導入しつつ、提案している。
販売市場では、顧客の嗜好や購買力、他社の販売政策、技術動向など、ほとんど無数に近い要因が複雑にからみ合い常に変化している。複雑な現象の中から、共通した繰り返しを発見する科学的手法として生まれたのが統計理論である。データを採って統計理論を応用すれば、効果的な販売施策を、見いだすことが可能であろう。
市場調査は役にたたないという声がある。調査結果とかデータは、実体そのものではなく、ひとつの影である。だから下手な方向から光を当てれば、その影から実体を推測することは不可能である。「販売のための市場調査」では、まんべんなく光を当て、いかにデータを集めるかという計画に力を入れること。
市場調査で何かわかったからといって、直ちに販売のアイデアが手に入り、製品の拡販に直結するわけではない。調査データをとる場合、「知る」ためではなく、市場に対する「行動の決定」という立場から考えなおしてみると、問題が単純化されるだろう。
例えば、データ分析にサイバネティクスの方法論を適用してみよう。まず目標を定めて行動を開始する。しばらくしたら、その結果が目標からどれだけずれているかを調べ、それによって次の行動を修正する。目標を確認しながら、このプロセスを繰り返せば最終的には目標に到達できる。フィードバックのループをうまく形成することと適切な目標設定が肝要。「売りながら調べる」あるいは「調べながら売る」ということだ。
売上が好転したとしても、結果を自社だけの数字で判断しないこと。市場占有比率とか、クレームの質や件数の変化などを総合して判断すること。結果が、他社の手の拙さにあるのか、市況の変化によるものか、またそれ以外の原因によるものか等、よく分析することが必要である。
情報理論によれば、情報量の定義は次のようである。
情報を入手したあとの予想/情報を入手する前の予想=情報量
報告書の頁数とか文字数には比例しないのである。どれだけ知らなかったことが含まれているかが問題となる。だからといって、情報量が多ければ価値があるとは限らない。伝える相手やタイミングによっても情報の価値は著しく差がある。情報にもとづいた行動の結果が、成功に結びついたかどうかが重要なのである。
調べようとする対象の集まり(母集団)が似たものの集まりであればあるほど、同じサンプル個数に対して精度のよい推定ができる。なるべく均一のグループにわける操作が、層別といわれる手法である。層別がうまくないと、誤差が大きくなり、調査結果を適用できる範囲が制限されてしまう。販売のための調査は、ただちに次に打つ手(行動)と結びつかなければならない。だから調査計画の第一歩として層別は重要であり、層別因子を思いつく知恵として、経験やカンも大きな意味をもってくる。
一般的に、データの精度はたくさんとることによってよくなる。同じだけの結論を得るのに、調べかたによっては、2回で済むところが、倍の4回もかかることがある。どのように組み合わせればよいかについては、実験計画法の分野において研究されている。データ活用の効率を画期的に高めるためには実験計画法の知識が必須である。
◆『販売の科学 売りながら調べ 調べながら売る』 唐津一、PHP文庫、1993/7
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