■『快楽としての読書』 丸谷才一の訃報を聞いた (2012.10.15)
作家・丸谷才一さんの訃報を聞いた(2012.10.13)。心不全のため、東京都内の病院で死去したとのことだ。享年87歳。
毎日新聞の追悼記事で、こんな文章が目にとまった。
……丸谷さんが嫌ったのはやたらに暗くて深刻ぶる態度、じめじめと湿った感情的な文章、偏狭なまじめさやえん世的な世界観だった。いたずらにイデオロギッシュな態度やファナティック(熱狂的)な主張も遠ざけていた。逆に、知的な市民生活や明るい笑い、健全な楽しみや品のいい態度を好んだ。そして何よりも大切にしたのは「考える」という姿勢だった。
このところ、筑摩書房から出ている「ちくま文庫」がマイブームである。社内にコンピレーションがなかなか得意な編集者がいるようである。筑摩書房はあまり宣伝に力を入れていないようなので、新聞紙上で新刊の広告を見ることはないのだが、店頭で見つけると思わず手にとってしまう。魅力的な本の刊行が続いている。わたくし的にはツボにはまってくるのである。
つい先日、仕入れたのが、丸谷才一先生の書評集、(1)『快楽としての読書[日本編]』と、(2)『快楽としての読書[海外編]』の2冊。言わずと、丸谷才一は書評については第一人者。かつて、扇谷正造が編集長をつとめた「週刊朝日」こそ、日本の書評文化を切り開いたと言っている。
こんなことも言っている。
……書評を載せる第一の理由は、読書案内として役立つことだ。そのためには書評はまず信頼されなければならない。〜しっかりした文章、藝のある話術、該博な知識、バランスのとれた論理、才気煥発の冗談などを駆使する書評家に接すれば、読者はその記事を疑うことなどできなくなり、褒めている本をぜひ読みたいと思うにきまっている。
そして、昨日だかに手に入れたのは、斎藤美奈子の『本の本』と題した、800ページを超えるたっぷりした大部の文庫だ。斉藤美奈子が1994年10月から2007年3月まで、新聞・雑誌などに発表した書評/読書エッセイの詰め合わせとのことだ。かねて、斎藤美奈子のファンである。歯切れの言い口調、鋭い切れ味。『文章読本さん江』であの本多勝一を切り捨てたのはすごい。
まだ目次をぱらっとめくっただけであるが、食欲を刺激するタイトルが並んでいる。「お好きなページからお読みください」と著者は言っている。読み進めるのが楽しみ。
◆ 『快楽としての読書 [日本編]』 丸谷才一、ちくま文庫、2012/4
◆ 『快楽としての読書 [海外編]』 丸谷才一、ちくま文庫、2012/5
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