■ 『101冊の図書館』 ハムレットではなくフォルスタッフへ (2004.6.13)
本読みのベテランが薦める101冊。平成5(1993)年の刊行とのことだが、ちっとも古くはない。著者にはベストセラーを紹介しようなんて気持ちはちっともないのだから。目配りの行き届いた、バランスのとれた選択である。古今亭志ん生、マクルーハン、それにコナン・ドイルまでがひとまとまりに収まっているブック・リストが他にありますか?
著者の視線は、真っ正面からわずかにはずして脇役にそそがれる。脇役へのスポットライトが主役を際だたせる。たとえば、シェイクスピアからは、フォルスタッフとシャイロックを挙げる。
フォルスタッフは『ヘンリー4世』と『ウィンザーの陽気な女房たち』に出てくる脇役。ハムレットとくらべると段違いに地味である。
省察のなかで決断がつかず、行動不能に陥った感のあるハムレットが「現代人」の一つのシンボルだとしたら、大ぼら吹きの、大めし食らいの、助平たらしいこの老人こそ、あきらかにもう一人の現代人だという。そして、あの藤山寛美に一度この道化役をやってほしかったと!
【ヴェルディが歌劇 《ファルスタッフ》 に作曲しましたね】
一方、「ヴェニスの商人」のシャイロックこそ、この喜劇に登場する唯一まっとうな人間だという。それは黒の役割のシャイロックに対して、白の役割をおびて登場する。「勇気あるキリスト者」たちをくらべてみるとあきらかだと。友人のために、自分の体の「肉1ポンド」を担保にいれたアントーニオ。友人知人の顔さえみると、めめしいことを言いたがる甘ったれだ。
◆ 『101冊の図書館』 池内紀著、丸善ライブラリー、1993/10
◆ ヴェルディの 《ファルスタッフ》 は→こちら
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